廃墟建築家
ヘルベルト・ローゼンドルファー
垂野創一郎訳
世界の終わりを目の当たりにした語り手は、廃墟建築家の設計した葉巻形の巨大地下シェルターに誘いこまれる。そこで彼が夢みるのは、カストラートの七人の姪が代わる代わる語る不思議な物語。もしかしたらこちらが現実で、葉巻シェルターのほうが夢ではあるまいか。『サラゴサ手稿』風の語りの入れ子構造を持ちながら、次々繰りだされる挿話の渦は、その枠さえなしくずしに解消してしまう。音楽への愛にあふれ、オーストリア・バロックの粋をこらした魔術的遠近法。
◇2024年12月刊 4620円(税込) [amazon]
◇ケース画 ジャン・バッティスタ・ピラネージ
ヘルベルト・ローゼンドルファー
1934年イタリア、ボルツァーノ近くの町グリースで生まれる。1939年にミュンヘンに移住。舞台美術家を目指したのち法律家に転身し、 ミュンヘンの区裁判所判事およびナウムブルクの上級地方裁判所判事を歴任。主な小説作品には『廃墟建築家』(69)、『中国の過去への手紙』(83)『黄金聖者あるいはコロンブスがヨーロッパを発見する』(92)があり、他に歴史書や伝記などにも健筆をふるう。また作曲も手がけた。2012年没。
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男爵と魚
ペーター・マーギンター
垂野創一郎訳
野党カワウソ党の陰謀で故国を追われた魚類学の大家クロイツ‐クヴェルハイム男爵。いざ逆襲とばかりに、ウィスキー樽の中で六百年前から生きているスコットランドの先祖の加勢を得て、気球戦団を率いてウィーン征伐に出発したはいいけれど、途中で思わぬアクシデントに見舞われてしまった。だがそれは世紀の発見への入口でもあった。神と人、獣と人が自在に交わる博物学の楽園で、ヨーロッパをかけめぐり、ホムンクルスや天上界の存在をも巻き込む一大ページェントここに開幕。
◇2024年春予定 予価4400円(税込) [amazon]
ペーター・マーギンター
1934年ウィーンに生まれる。ウィーン商工会議所秘書、トルコおよびイギリスのオーストリア大使館付文化担当官、外務省部局長を経てロンドンのオーストリア文化事業センター長に就任。1966年に『男爵と魚』で小説家デビュー。主な長篇に探偵神秘小説(クリミステリウム)の副題を持つ『死んだ叔父』(67)、『ケーニッヒルーフェン』(73)、『万事休す』(83)などがある。ウォルター・デ・ラ・メアなどの翻訳でも知られる。2008年没。
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メルヒオール・ドロンテの転生
パウル・ブッソン
垂野創一郎訳
レンズ職人の家に生まれたゼノン・フォラウフは前世を記憶していた。以前の彼は十八世紀の田舎男爵の息子メルヒオール・ドロンテであり、幼い頃、回教僧の蠟人形に命を救われていた。その後も折にふれて姿を見せる回教僧は、フランス革命のさなか、ついにメルヒオールと決定的に結びつく。そして現代のゼノン・フォラウフとして転生した今、己の本質もますます明瞭になるのだった。多様な異文化が渡来・衝突・融和する東欧の地ならではの諸教混淆ピカレスク神秘冒険小説。
パウル・ブッソン
1873年インスブルックに生まれる。グラーツで医学を修めたのち将校としてガリチアに赴任するも病を得て退役。1900年より当時オーストリアで最大の発行部数を誇った日刊紙「新ウィーン日報」の編集部員として世界を飛び回る。第一次世界大戦中は従軍記者として活躍。小説作品には英米でも高く評価された『メルヒオール・ドロンテの転生』(21)の他に『炎の妖精』(23)などがある。1924年没。 |

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