《誉れの剣》
イーヴリン・ウォー
小山太一訳

つわものども  誉れの剣T
 Men at Arms (1952)

カトリックの旧家出身の紳士ガイ・クラウチバックは結婚に失敗し、イタリアの別荘で隠遁生活を送っていたが、ナチス・ドイツの擡頭にヨーロッパ情勢が風雲急を告げると、今こそ大義に身を捧げる時とイギリスへ帰国する。やがて第二次世界大戦が勃発、ガイは入隊先を求めて運動するが、軍隊経験のない三十五歳の中年男を採用しようという隊はなかった。それでも、なんとか伝手をたどって伝統あるホルバディアーズ連隊に見習士官として入隊したガイは、アフリカ帰りのアプソープや年下の若者たちと共に訓練を受けることに。旅団長には第一次大戦の勇士リッチー=フック准将が着任し、戦地へ向かう準備が進められるが……。戦争のメカニズムに巻き込まれた人々の滑稽でグロテスクな生態を、真面目な思索と辛辣な諷刺、時にスラプスティックな笑いのめまぐるしい交錯のうちに描いたイーヴリン・ウォーの名作《誉れの剣》三部作の第一巻。ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞受賞。本邦初訳


◆白水社/エクス・リブリス・クラシックス
◆2020年7月刊 3740円(税込)[amazon]
◆装丁=緒方修一/装画=フェリックス・ヴァロットン

◆四六判・上製


士官たちと紳士たち  誉れの剣U
 Officers and Gentlemen (1955)

ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから戻ると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは、元妻の二番目の夫トミー・ブラックハウス、王立矛槍兵団を追放された優さ男トリマーら旧知の面々と出会い、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえ親しくなる。やがて命令違反の処分もうやむやのまま旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発し、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にクレタ島攻防戦への出動命令が下った……。戦争の愚かしさ、恐ろしさとともに英国階級社会の変貌を描くイーヴリン・ウォー畢生の大作《誉れの剣》三部作第二巻。本邦初訳

◆白水社/エクス・リブリス・クラシックス
◆2021年10月刊 4180円(税込) [amazon]
◆装丁=緒方修一/装画=フェリックス・ヴァロットン
◆四六判・上製


無条件降伏  誉れの剣V
 Unconditonal Surrender (1961)

激戦地クレタ島脱出から二年が経ち、ガイ・クラウチバック大尉はロンドンで無為な日々を送っていた。王立矛槍兵団の戦友たちが戦地へ向かうなか、もうすぐ四十歳という年齢を理由にひとり後に残されたガイは、開戦時に抱いた崇高な大義を見失いつつあった。一方、クレタ島でガイの命を救ったリュードヴィック曹長はいまや情報軍団少佐に昇進し、戦場で書きとめた覚書きに基づく『瞑想録』の出版を画策中。ガイの元妻ヴァージニアは予期せぬ妊娠に途方に暮れていた。ついに情報将校としてイタリア方面への派遣が決まったガイは落下傘降下訓練に参加するが、訓練中の負傷で療養生活を送るはめに。不運続きのガイの戦場は一体どこにあるのか……。自身の軍隊経験をもとに、戦争の醜悪かつ滑稽な現実と古き理想の崩壊を描くイーヴリン・ウォー最後の傑作《誉れの剣》三部作完結篇。本邦初訳

◆白水社/エクス・リブリス・クラシックス
◆2023年1月刊 4620円(税込)[amazon]
◆装丁=緒方修一/装画=フェリックス・ヴァロットン
◆四六判・上製


イーヴリン・ウォー (1903-1966)
イギリスの作家。ロンドン郊外のハムステッドに生まれる。オックスフォード大学では放蕩生活を送りながら学内文芸誌に関わり、大学中退後、パブリック・スクールの教師となる。1928年、教師時代の体験を基にした『大転落』を発表。『卑しい肉体』(30)では第一次大戦後の「陽気な若者たち」を取り上げ注目された。同年、カトリックに改宗。『黒いいたずら』(32)、『一握の塵』(34)など、辛辣な諷刺とユーモアに溢れた作品で人気を博し、作風を転換し、貴族の生活を美しく描いた『ブライヅヘッドふたたび』(45)は大成功を収めた。戦後の代表作に『つわものども』『士官たちと紳士たち』『無条件降伏』の『誉れの剣』三部作(52-61。合本改訂版 65)、『ピンフォールドの試練』(57)がある。