バッテリあがり


2週間ぶり

 15日振りのエンジン始動でした。
 過去にもこれくらいのブランクが無かったわけでもないので、特に気にすることなくキィを差込みエンジンスタートしました。
 一瞬何が起きたのか理解できませんでした。「カチッ」とキィをひねる音だけがむなしく響きますがエンジンに火が入る様子は有りません。ただ最初はエンジンも少しばかり「動こう」としたようで、「ウン!」とうなったような気がしましたが、リトライを重ねるたびに徐々に元気が無くなり、挙句の果てにはキィONにした状態でのメータパネル内の灯り(トリップメータ、警告灯等)も暗く点灯しなくなってしまいました。
 どうやらバッテリがあがってしまったようです。

イグニッション

 過去にも何度か経験がありました。前者パンダ時代に、エンジンの未始動期間がそれほど永かったわけでもないのですが、湿気が多い日が続いた後の休日に、ストンッとエンジンがストライキをおこしてしまったのです。今回も、先週末に乗る機会がなく2週間ぶりであった事と、そういえばこのところ雨が続いていたので幾分か消耗が早かったのでしょうか?
 それにしても、現搭載バッテリーは前回車検時での交換以来になるので、約1年半でこの有様。やはりよく言われる通り日本(アジア)特有の高い「湿気」にやられてしまったのでしょう。

D.I.Y.

 まず、近所に住む知人に救援をお願いすることを考えました。
 バッテリあがりは、過去数度の経験からブースタケーブルを常備しているので、あとはもう一台のバッテリ(すなわちクルマ)があれば何とかすることは出来ます。しかしあいにくその知人は現在外出中で帰宅時刻は未定との事。
 まぁ、幸いこの時は別段用事があったわけでもなく、気まぐれに「ドライブでも行こうかな?」と思った程度だったので、その知人の帰宅を待って、翌日の「処置」でもよかったのですが…。

 ふと、JAFの三文字が脳裏をよぎりました。
 初めてクルマを購入した時に加盟して以来十数年、そういえば一度も利用したことがありません。財団法人日本自動車連盟、略して「JAF」。

   「確か、バッテリあがり救援程度であれば無料のハズ」
   「今後、外出先で同じような目にあって時のためにも」
   「何事も経験、ケイケン!」

 そう思った私は、「ならば」と生まれてはじめての「JAF救援」を決意することとなったのです。

会員証?

 そうとなればまずは電話です。
 免許証と共にサイフに入っている「JAF会員証」を取り出しそこに書かれた簡易電話番号「#8139」にかけてみることに。

   「ん?」

 よくよく会員証を眺めてみると、有効期限が「2003年○月まで有効」と書かれているではありませんか。今はもう2004年、期限が切れていました。ただ、JAFへの加盟更新手続きは、現在銀行口座自動引き落し切り替えており、(確か)今年度分も引き落されたと通知が来てたような…。その記憶が正しければ今年も自動的に継続されているハズです。

会員証

 再度サイフの中をあさってみると、同じような「JAF会員証」が複数枚出てきました。が、いずれも「2002年○月まで有効」、「2001年○月まで〜」挙句の果てには「1996年〜」なんてのも出てきました。肝心の「2004年○月まで有効」の「会員証」が見つかりません。
 救援窓口の電話番号は、旧い会員証にも書かれており、今も変更は無いと思うのですが、会員証が無いと、JAFに加盟している事が証明出来ないため救援が「有料」になってしまうのでは?それは面白くありません!。
 とりあえず部屋に戻り、棚に押し込められたハガキ、封筒など郵便物の束からJAFからのモノを探します。「電話料金」、「NHK受信料」、「インタネットプロバイダ使用料金」等々の「請求書」類には目もくれず、「JAF、ジャフ、じゃふ!」と一心不乱に探します。
 すると、封は開けられていますが殆ど中身を見ていないような状態のJAF様からの封筒が出てきました。消印は3ヶ月前。
 乱暴に中身を机の上にバラすと、ありましたありました。見慣れた半紙製の「会員証」が。

   「2004年○月まで有効」

 おおぉ、ヨカッタ!これでJAFを呼べる!

メーデー、メーデー!

 手持ちのPHSからかけようと思いましたが、簡易ダイアル「#8139」はPHSではかけられないとの事なので仕方なく自宅の固定電話でかける事にしました。この番号にダイアルすれば、何処からかけてもその場所から一番近い支所につながるそうで、いちいち所在地・管轄などを気にしなくて済みます。
 数回のコールの後、新人でまだ慣れていないのか、「お電話ありがとうございます」の短いフレーズの間に2、3噛みながら女性が電話口に出てくれました。世間話のひとつでもしたかったところですが、精神的にそんな余裕も無い私は、早速こ女性に電話をかけたワケを話します。

   「バッテリーがあがったようです。助けてください」

 この日は平日でしたが、案外「混み合っている」らしく、救援隊の到着は今から50後になるとの事。特に急いでいないのでお願いすることとし、「現場」は自宅であること、車種名、そして連絡先電話番号を伝え到着を待ちます。
 約50分もの待ち時間が出来てしまったので、階下のガレージに下りてなんとなし作業をすることも考えたのですが、連絡先として伝えた自宅固定電話のベルが鳴らないとも限らないので、仕方なくリビングでテレビを観ながら待つことにしました。
 今回は、現場が「自宅」でこれからの予定も無くのんびりした気分で待っていられましたが、これが外出先で何も無く、極寒等の悪条件であったら到着までの数十分がとてつもなく永く感じられたことでしょう。

JAF、着

 予想に反して案外早く到着してくれました。
 ソバ屋の出前じゃありませんが、こういった場合の「見積もり時間」は大抵、サバを読むものと思っていました。「5分」と言われれば10分、「30分」と言われれば40分から1時間は覚悟するもの、と。さらに我が家は、稀に見る「変形住宅地」で複雑に入り組んでおり、引越した当初は郵便局すら一度では到着できないほどの「宅配便泣かせ」だったので、JAF救援隊も恐らく迷いながらの到着となると予想していました。
 電話を切ってから20分後。案の定、ぼんやり窓から外を見ていると、道を一本隔てた「向こう側」にレッカーを備えたそれらしき小型車が通っていくのが見えました。地図上ではそこから我が家までクルマでの移動が出来そうに見えるのですが、実際は約1qぐる〜っと迂回しなくてはなりません。道順を教えてあげようと、急いで家の外に出たのですが、既にその場を去ってしまい姿は見えず。「迂回路」に向かったようです。もし迷ったのであれば自宅に電話があるかもしれないと思い、急いで部屋に戻りましたが、それから程なくして我が家の目の前に無事登場。救援要請から約40分後の到着でした。

いざ、チャージ!

 「救援隊」は、年の頃30歳前後の髪の毛を伸ばして茶色く染めたいまどきのセーネン一人でした。私はなんとなく二人組の「コンビ」での登場を予想していたのですが、考えてみればこの程度の救援にわざわざ複数人で対応するほどの事もないのでしょう。最近では今回のような「バッテリチャージ」や「鍵の綴じ込み」程度であれば、より機動的なバイクでの登場もあると聞きます。

 「JAF会員証」を提示して早速作業に入っていただきます。
 クルマは既にボンネットは開けた状態でガレージに収まっていたので、セーネンは工具箱からテスターを取り出し、バッテリの「+(プラス)」「−(マイナス)」両極に充て容量を測っているようです。

   救援隊「やっぱりバッテリあがりですね」

 セーネンは淡々と穏やかに語りました。
 これを聞いてとりあえずホッしました。実は、バッテリあがりが一番怪しいとは思っていましたが、それにしては放電期間が2週間とは短すぎるのと、バッテリの換装から約1年半と短すぎることを考えると、原因は他にあるのではとも思っていました。
   「バッテリとプラグを繋ぐケーブルが断線しているのでは?」
   「セルモータとの接続、或いはセルモータそのものの故障では?」


 等など…。未だそれらの疑惑が完全に払拭された訳ではないのですが、とりあえず可能性は少なくなりつつあります。
 穏やかセーネンは手際よくテスターを片付けると、今度は手さげカバン大の黒い箱を取り出し運んで来ました。どうやらこれが充電(チャージ)用バッテリパックのようです。
 普段、我々素人がバッテリチャージをする時はもう一台クルマを用意し、そのバッテリの両極と不動車のバッテリをブースタケーブルにて繋ぎ「救援」しますが、JAFのそれは専用の「バッテリカバン」からチャージするようです。
 ちょっと考えれば当たり前なのですが、私はてっきりJAFの救援「車」のバッテリと繋ぐモノと思っていました。そんなわきゃないですねー。

ブースタ・ケーブル


復活!

   「じゃ、エンジンかけてみてください」

 手際よく我が「仮死状態」のクルマにケーブルを繋ぐと、穏やかセーネンが本当に穏やかにそう言い、私は運転席に座りイグニッションキィをひねります。
 エンジン始動前にもう先ほどとは状況が全く違うのが分かりました。メータコンソール内の灯(あか)りのともり方が断然明るい!

   「ブロロン!」

 見事一発で始動しました。
 始動を確認するとセーネンはまたしても手際良く「バッテリチャージャーかばん」を片付け、今度は伝票の作成に移行しました。

「イクシロン」

 作業完了伝票作成のため、再度「会員証」の提示を求められました。その時に、
   救援隊員「このクルマ、ランチアの何て言うクルマですか?」

と聞かれました。どうやら伝票作成において正式な車種名を記入しなくてはならないようです。
   私   「ランチアの『イプシロン』です」
   救援隊員「『イクシロン』ですか?」
   私   「いえ、『イプシロン』です」
   救援隊員「『イプシロン』ですか?」
   私   「はい、『イプシロン』です」


 こんなやりとりがあるのも、このクルマならではでしょうか?。

リセット

   「今回は無料となります」

 この言葉を残し、穏やかセーネンは去っていきました。この日は「混み合っている」との事だったので、次の現場に向かったのでしょうか?
 とりあえずエンジンは始動しましたが、これではまだバッテーリの充電は不十分でほとんど「空」の状態であることには変わりありません。元々「ちょっとドライブに」行くつもりだったのですが、ここはひとつもう少し距離を伸ばしてバッテリ充電をすることにしました。どれほど走れば十分なのかわからないので、50qをひとつの目安とすることにしてとりあえず出発。
 出発直後に気づいたのですが、メータコンソール内の時計やトリップメータとラジオのメモリが全てリセットされているようです。考えてみればバッテリあがりの為「停電」していたのですから当たり前と言ったら当たり前ですねぇ。

 リセットされたのは、メータコンソール内ではトリップメータとデジタル時計、オーディオは全てでラジオのチューニングから各種ボリューム設定、消しておいたボタン押下での電子音も初期状態に戻っていました。メータ同様時計もクリアされています。感心したことに、メータ内の時計やトリップメータはリセットされても、総走行距離計である「オドメータ」は記録を維持しています。まぁ、当たり前ですが、これくらいで「クリア」されるくらいでは色々な面で「不正」が出来てしまうので、それなりに対処しているのでしょう。

伝統

 50qのノルマを自分自身に課したのですが、予想以上に渋滞したこともあり、約2時間のドライブでも40q程しか走れませんでした。その代わりでもないのですが翌々日の日曜早朝、約60q程走行しとりあえずはバッテーリチャージは「完了」としました。
 昔も今もイタリア車は「電気系統」が弱いと聞きます。事実過去にもヘッドライトの不具合をはじめブレーキランプ、クラクション、ウィンカ、クーラー、そして今回のようなバッテリあがりの経験も1度や2度ではありません。
 一説によると、こういった一連の伊国車不具合の最大の「ネック」はケーブル類にあり、特にフィアット製のケーブル類の質は信じられないほど粗悪で頻繁に漏電を起こすそうです。また、アーシングによる効果も比較的高いそうで、この点からもオリジナルのケーブルによる負荷の大きさが見て取れるでしょう。
 以前一度考えた、プラグコネクタケーブルの新調を再度考えてしまいました。


おわりに

 突然の障害の発生でJAFの救援を仰いだのですが、先にも書きました通り、自宅駐車場でそれも別段切迫していたわけでもなく、自分自身での対処も可能なのをあえて休日の「暇つぶし」としてJAF対応をお願いしました。結果としては「会員証」の不備など「本番」であれば苦労したかもしれない点があったので、やはり「やってみる」事は重要なんですねぇ。
 ただ、かと言って今後は気軽にJAFを呼ぶのはやはりつつしみ、出来る限り自分自身の「手」による処置をしたいと思っています。そうしないとどんどんクルマが手の届かないところに行ってしまいそうで…

「いざ」という時にはアテにしてますぅ♪


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