フィリピントヨタ不当労働行為事件
神奈川県労働委員会「却下」決定に抗議する!
多国籍企業の不法を世界の労働者の団結で追い詰めよう!
2006年8月16日 フィリピントヨタ労組を支援する会
2005年2月10日、全造船機械労働組合関東地方協議会(以下ZENZOSEN)はトヨタ自動車の不当労働行為救済を神奈川県労働委員会に申し立てた。不当労働行為とみなすべき事実は次の二点であった。 (1)日本多国籍企業トヨタの総帥トヨタ自動車のフィリピントヨタ労組(以下TMPCWA)に対する国際的不当労働行為、A、団体交渉拒否、B、233名の解雇と25名を刑事告訴、 (2)この不当労働行為についてZENZOSENとの団体交渉拒否。
それに対して、神奈川県労委は2006年2月8日の第6回調査を最後に審問も開始することなく中断し、ZENZOSENは7月までに審問開始を要求する団体署名約700通を神奈川県労委に提出していた。しかし、神奈川県労委は8月8日救済申し立て却下の決定を通知してきた。
この決定は無数の日本の多国籍企業が世界中で行っている無数の不当労働行為に正面から向き合うことを回避し、この多国籍企業の不当労働行為を免罪するばかりでなく助長するものであり、到底容認できるものではない。
神奈川県労働委員会主張の整理
−外国の労使関係には日本労働組合法は適用されない!
神奈川県労委は「トヨタ自動車による支配介入であり不当労働行為であるとするのは、フィリピン国内において組織されたTMPCWAと同国内に設立されたTMPCとの間の国内での労使紛争に係わるものである」として、救済が求められているのはフィリピンの労使紛争に係わるトヨタ自動車の「支配介入であり不当労働行為」であるとしている。
ところがここから飛躍して次のように言う。
「我が国の労働組合法は、日本における労使関係に適用されるのが原則であって、本件のような外国における労使関係には、同法を適用しなければ公平さに欠けるとか不合理であるなどの特段の事情がない限り適用されないと考えられる。」
神奈川県労委は、ここで、先にフィリピンの労使紛争に係わるトヨタ自動車の不当労働行為と述べていたことを、「本件のような外国における労使関係には」として、「外国の労使関係」に切り縮めている。その上で、「外国における労使関係には、同法を適用しなければ公平さに欠けるとか不合理であるなどの特段の事情がない限り適用されない」という。
ではこの「特段の事情」とは何を指しているのか。
「我が国の労働組合法を適用すべき特段の事情の存在を窺わせる具体的事実に関する主張があったとは認められず、またそれに関する疎明も見当たらない。」
ここの表現は分かりにくいが次のような意味である。もし日本の法人であるトヨタ自動車が不当労働行為を指示した事実があれば、トヨタ自動車の指示に対してそれが救済されないのは「公平さに欠け」「不合理である」と認定できるが、ZENZOSENの主張にはトヨタ自動車が具体的に不当労働行為を指示した事実についての主張、もしくは疎明がない。したがってこの申し立ては却下する、と神奈川県労委は言う。
問題は、「外国の労使関係」ではなく、日本企業の海外での不当労働行為である!
また、日本労働組合法が適用されねば、「不公平で」「不合理」である!
神奈川県労働委員会は、最初「外国の労使関係に係るトヨタ自動車の不当労働行為」としていたものを「海外の労使関係」に切り詰めて議論し、そこには日本の労働組合法は適用されないというように問題を立てた。確かに、日本の企業と関係なく行われた単なる外国の労使関係であれば当然日本の労働組合法は適用されない。だが、初めから問題となっているのは 日本の多国籍企業の外国での不当労働行為であった。
単なる外国での労使関係と日本企業がかかわりを持った外国での労使関係ではまったく意味が異なってくる。日本国憲法にも日本の労働組合法にも日本企業がかかわりを持った海外の子会社での不当労働行為に日本の労働組合法が適用されないとは書かれていない。そこには日本の企業の海外に対する不当労働行為を裁いてはならないとか、日本の企業によって不当労働行為を受けた海外の労働者がその救済を求めることができないなどとは書かれていない。けだし当然である。日本の企業が国境を越えて海外の労働者に不当労働行為をおこなっているのに、その海外の労働者が救済を求めることができなかったならば、日本の企業は海外の労働者に対しては不当労働行為のやり放題になる。これは、「不公平」であり「不合理」ある。
神奈川県労働委員会は、単なる海外の労使関係ではない日本企業がかかわる事件を、単なる「海外の労使関係」にし、そこには日本の労働法が適用されないというように主張してしまったのである。こうした解釈は海外に日本の法人や日本の多国籍企業としての海外法人がほとんどなかった時代には幾ばくかの妥当性があったとしても、海外に日本の法人や日本の多国籍企業としての海外法人が無数に展開している今の時代には全く妥当性がない。
日本の多国籍企業は海外子会社と一体であり
無条件で海外の不当労働行為の責任がある!
神奈川県労働委員会はさらにここから外国の労使関係にかかわる日本企業の行為は「特段の事情」、不当労働行為の指示などの具体的な事実がある限りでのみ日本労働組合法が適用されるのだと主張した。つまり、日本企業が係わる全ての海外の不当労働行為の救済には、日本企業の不当労働行為指示などの具体的事実の指摘を要求することになった。つまり、日本企業がこの海外の企業とどのような関係にあるかを具体的に検討して、その関係に応じたかたちで不当労働行為責任を認定する作業を放棄してしまったのである。
たとえば、海外企業が日本法人の単なる出張所であれば、この日本法人は単一企業として海外で行われた不当労働行為の全責任を負わなければならないことは明らかであろう。それに対し、日本の企業の支配の下におかれていない海外の企業で、日本の企業が何らかの影響力を行使して不当労働行為を行わせた場合には、神奈川県労働委員会が主張する「特段の事情をうかがわせる具体的事情の存在を窺わせる具体的事実」が必要であろう。
私達の見解では、日本企業と海外企業が別法人であっても、多くの多国籍企業のように日本企業が中枢になった単一の運営がなされ事実上一体組織であるものは、多国籍企業中枢の日本企業も海外の不当労働行為の責任を無条件で負わなければならない。また、企業運営は一体ではないが、日本企業がこの海外企業に対して支配している場合、直ちにこの不当労働行為の全責任がこの企業にあるとはいえないが、この企業は海外企業の不当労働行為を改めさせる力を持っている。したがって、この企業には団体交渉に応じる義務とこの不当労働行為を改めさせる義務があり、団体交渉を拒否し海外企業における不当労働行為の黙認を続けるならば、その全責任を負わねばならない。
神奈川県労委は「外国の労使関係には日本労働組合法は適用されない」という誤った命題から出発したため、海外での特殊な不当労働行為の事例を一般化し、多国籍企業における中枢企業と海外子会社の関係を具体的に検討することを回避してしまったのである。
日本法は多国籍企業中枢企業の全世界の不法行為を裁かねばならない!
むろん多国籍企業に対する法の適用には大きな問題がある。すなわち、現在の世界の法体系では日本の多国籍企業と世界の労働者の間に一律に適用される労働組合法はない。したがって適用される法律はフィリピン法か日本法であり、それを規制するものとしての国際条約がある。したがって、本件のような日本の多国籍企業のフィリピンでの事件については、日本法が適用される場合、フィリピンの労使関係に係わる部分はフィリピン法に配慮されねばならず、日本法をそのまま適用できない場合も生じる。
神奈川県労働委員会が「外国の労使関係には日本労働組合法は適用できない」というときこの問題が背景にあったことは明らかである。だがしかし、それは世界には今旧来の日本法ではカバーするのが困難な事案が発生していることを示している。であるならば、労働委員会は具体的事案に則して法の運用を検討して問題の解決に当たると同時に、法の不備を指摘して法の改善を促すべきなのであって、「外国の労使関係には日本労働組合法は適用できない」といった新らしい現実から眼をそむけてはならない。
私達が救済を申し立てたのは次の二点である。 (1)日本のトヨタ自動車の国際的不当労働行為、すなわちフィリピントヨタが団体交渉を拒否し、233名を解雇し、25名を刑事告訴したこと。
(2)この不当労働行為についてZENZOSENが申し入れた団体交渉をトヨタ自動車が拒否したこと。
(2)の救済についてはトヨタ自動車が団体交渉に応じればよいだけのことであって全く問題はない。問題は(1)である。ZENZOSENが求めている救済は A、フィリピントヨタのTMPCWAを嫌悪した団体交渉の拒否、B、TMPCWA破壊のための233名の解雇、25名の刑事告訴である。この救済はフィリピン法とフィリピンが締結した条約に反するかたちで行うことはできない。言葉を変えれば、日本法をそのまま適用できない部分もありうる。Bの136名の原職復帰、18名の刑事告訴の取り下げはフィリピン法にもフィリピンが締結している条約にもまったく抵触しない。
AのTMPCWAとの団体交渉の開始は、フィリピン法が団体交渉権を単一労組にしか認めないため、日本の労働組合法をそのまま適用する形では実施できない。つまりフィリピン政府がトヨタに加担して今年2月にフィリピンの法手続きに違反する形で承認投票(CE)を実施し、CE当事者全体の意思を無視して有効投票数を決め、御用組合TMPCLOが新たに団体交渉権を獲得したと宣言しているため、フィリピントヨタがTMPCWAとの団体交渉を直ちに開始することにならない。
フィリピントヨタとTMPCWAの団体交渉を直ちに開始できないのは、多国籍企業トヨタのフィリピン子会社での日本法にもフィリピン法(最高裁判決)にも国際条約にも違反する団体交渉拒否によってもたらされているのであり、この多国籍企業の総帥トヨタ自動車が全責任を取らねばならない。多国籍企業トヨタがTMPCWAの正当な権利を回復する方法を提示しなければならない。
多国籍企業中枢企業はその企業が国内で行った不当労働行為だけでなく、海外で行った不当労働行為についても、日本法と国際条約、その精神に照らして外国の法とその精神に抵触しないかたちで責任を取らねばならない。
「外国の労使関係には日本の労働組合法は適用できない」という神奈川県労働委員会の主張は、現在無数の多国籍企業中枢が行っている無数の海外に対する不当労働行為を免罪し、さらに世界に多国籍企業の不法を助長するものであり、ここに激しく抗議する。
神奈川県労働委員会の決定書(pdf)
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