多国籍企業を擁護する高裁判決を批判し、

フィリピントヨタ労組、団体交渉権で最高裁に上告!

2009年5月27日

                                  フィリピントヨタ労組を支援する会

フィリピン国家が多国籍企業の僕に!

 フィリピントヨタ争議の現地裁判が大詰めを迎えています。フィリピンではフィリピントヨタ労組をつぶすために、多国籍企業トヨタにフィリピン政府が肩入れしてきただけでなく、フィリピン国軍までもが動員され、そしてさらに裁判所も多国籍企業の僕(しもべ)になっています。

 2007年10月、フィリピン最高裁は「233名の解雇は有効だ」と宣言し、これを擁護するために「ストライキは時代遅れだ」と宣言しました。2008年4月、マニラ高裁はフィリピントヨタ労組の団体交渉権を2000年に遡って完全に否定し、トヨタの団体交渉拒否を免罪しました。この判決でマニラ高裁はこの裁判に先行する最高裁判決、第一審判決、最高裁仮処分判決などを完全に無視することまでやってのけました。

フィリピントヨタ労組の上告!

 これらの判決はフィリピントヨタ労組の労働者たちに衝撃を与えました。しかし、被解雇組合員と現職の組合員たちは真剣な議論の後、「闘いを続ける」、「あくまで233名の労働者の現職復帰を求め続ける」ことを決めました。そして、今年4月フィリピントヨタ労組はマニラ高裁判決を批判し最高裁に上告しました。

 今、フィリピン最高裁は事実上労働者からストライキ権を剥奪し、マニラ高裁は団体交渉権を取り上げようとしています。フィリピン司法の流れが労働基本権の剥奪に向かっています。そして、フィリピントヨタ労組はこの流れに真正面から立ち向かっています。

 フィリピントヨタ労組の最高裁団体交渉権上告状和訳 (PDF)

 以下はこの上告状の核心部分の整理です。

フィリピンにおける団体交渉権と2000年団体交渉権選挙

 フィリピンでは、監督職労働者と一般職労働者は別個の労働組合を作り、政府の承認を受けます。承認を受けた労働組合は団体交渉権を獲得するためそれぞれ監督職従業員と一般職従業員の全体の選挙を受け、そこで過半数を獲得した場合だけ、5年間の団体交渉権を得ることができます。

 2000年にフィリピントヨタで一般職の選挙が行われ、フィリピントヨタ労組が過半数を得たとして、労働雇用省は団体交渉権を認めました(承認票503票、不承認440票、無効120票)。しかし、フィリピントヨタは、無効120票の中の労働雇用省が監督職票として無効にした105票を、一般職票であり有効であると異議を申し立てました。そのため、労働雇用省は01年聴聞会を開きましたが、会社側は105人の中から22人の証人しか立てることが出来ず、そのうち18名だけが一般職と認定され、再びフィリピントヨタ労組の勝利が確認されました。このフィリピントヨタ労組の権利は最高裁仮処分判決で再確認されましたが、トヨタは団体交渉拒否を続けました。

2006年団体交渉権選挙とマニラ高裁判決

 そして、2005年、御用組合TMPCLOが結成され、御用組合は労働雇用省に新たな団体交渉権選挙を行うことを申請しました。それに対してフィリピントヨタ労組はトヨタが団体交渉を拒否し続けトヨタと組合が争議状態にあるので、新たな選挙は認められないと主張しました。しかし、労働雇用省は承認し、2006年に団体交渉権選挙を実施し、フィリピントヨタ労組の批判を押し切って御用組合の勝利を宣言しました。トヨタは御用組合とすぐに団体交渉を行い、労使協定を結びました。

 こうして、マニラ高裁は、(1)2000年の団体交渉権選挙に対する会社の異議申し立て、(2)2006年の団体交渉権選挙へのフィリピントヨタ労組の異議申し立てに関連する合計四件の事件を併合して判決を下しました。

2006年の団体交渉権選挙

 高裁はまず2006年団体交渉権選挙について判定しています。その趣旨は以下です。

 「すでに御用組合TMPCLOがフィリピントヨタ一般従業員の多数派である。彼らが06年団体交渉権選挙で勝利し、会社との間で労働協約を締結し、一般従業員がそれを承認した。だから、フィリピントヨタ労組の『自分達に団体交渉権がある』という主張は空理空論である」

 一見妥当な見解のように見えます。しかし、この判決は、トヨタが団体交渉を拒否し、2000年選挙が認めた団体交渉権が否定され続けている下で、新しい団体交渉権選挙が許されるのかという問題に全く触れていません。また、労使間で紛争が起きている場合の新しい団体交渉権選挙を禁止する労働法などが定める規定についても完全に無視しています。つまり、この判決は新たな多数派が、トヨタの団体交渉拒否と233名の解雇という違法行為によって作り出されたものであることを完全に隠蔽しています。

組合をつぶせば団体交渉の必要がない!

 マニラ高裁判決の真実は次の点にあります。

 「組合を弾圧してつぶせ!そうすれば組合と団体交渉をする必要がない!
つぶせなくとも、まともな組合を少数派にし、御用組合を多数派にせよ!
そうすれば、多国籍企業はまともな組合と団体交渉しなくて良い!
 あとは、政府や軍隊だけでなく、裁判所も多国籍企業を助ける!   」

2000年の団体交渉権選挙

 次に、高裁判決は2000年団体交渉権選挙について判定しました。驚くべきことに、105名の単なる「宣誓供述書」、一方的な単なる言い分を証拠として105名全員を一般職であると宣告、逆に、105名が「管理職または監督職のレベルに属することを示す有力な証拠は記録上存在しない」と断定しました。

証拠は裁判所が作り出す!

 しかし、2000年に労働雇用省が105票を監督職票と認定し、無効であるとしたのは、トヨタの別の事件での最高裁判決(1997年)を根拠にしています。そして、労働雇用省長官はトヨタの異議に対しては公聴会を開き、トヨタが出席させた22人の証人の中に「彼らが現実に果している役割」が監督職にあたるものが4人おり、全員が一般職であるとみなせず、18名のみを一般職であると判定しました。さらに、2003年には最高裁が仮処分判決でフィリピントヨタ労組に団体交渉権があると判定しました。

 大胆にも、高裁判決はこれら(1)1997年最高裁判決、(2)労働厚生省の公聴会、(3)2003年仮処分最高裁判決について何も述べず、完全に無視し、逆に、一方的な供述などを証拠だと宣言したのです。今やフィリピン司法では、多国籍企業のためであれば、最高裁判決すら無視し、証拠が簡単に捏造されるようになったのです。

 フィリピンの裁判所は多国籍企業の僕(しもべ)になりつつあります。フィリピン最高裁がストライキ権を葬り去っただけでなく、マニラ高裁も団体交渉権を葬ったのです。今フィリピン労働者は司法の上では労働基本権を剥奪されつつあります。

 しかし、フィリピントヨタ労組はこれに屈服することなく、果敢にこの司法に闘いを挑んでいます。
 彼らの闘いへの支持を!
 彼らと共に多国籍企業トヨタに対する闘いを!