控訴審 国側準備書面を批判する
                                          判決12月26日(水)13:15

国境を越えた労使関係をフィリピン労使関係に矮小化し
    日本トヨタの不当労働行為関与を
       「経営の観点からなした対応」と弁護!
 
                                                 2007年11月12日
                                   フィリピントヨタ労組を支援する会

1)はじめに

 2000年3月フィリピントヨタ労組は承認選挙で勝利し団体交渉権を獲得したが、フィリピントヨタは団体交渉を拒否し、2001年3月労働組合員233名を解雇した。そして2003年の団体交渉権に関する最高裁勝利判決、ILOでの労働組合支持勧告を受け、2004年フィリピントヨタ労組は全造船機械労働組合関東地方協議会に加盟し、2005年2月全造船関東地協は日本トヨタの不当労働行為について労働委員会に救済を求めた。神奈川県労働委員会はこの訴えを却下し、中央労働委員会と東京地裁は棄却し、東京高裁は2007年10月29日第1回の弁論だけで結審し12月26日に判決が行われる予定になっている。
 これは日本で初めて多国籍企業の国境を越えた不当労働行為の救済を求める案件であり、私たちが手探りで訴訟審理を進めざるを得なかったこともあり、審理が噛み合わず、労働委員会、裁判所が「わが国の労組法は海外の労使関係には適用されない」と切り捨ててきた性格が強かった。しかし、控訴審では国側は準備書面でやや踏み込んで自らの主張を述べている(これはこの間の私たちの闘いが追い詰めた成果であるといえるがこの点については稿を改めて紹介したい)。ここではまずその国側の主張を整理しながらそれに対する反論を述べたい。

  被告準備書面はhttp://www.green.dti.ne.jp/protest_toyota/other/kousai_hikoku.pdf

2)国側の主張

(1) 「労働委員会は労働組合法第七条の規定に違反する使用者の行為(不当労働行為)についてのみ同法27条の12に定める救済を行う権限を有するにとどまるのであり、他の法規を根拠にして同法上の救済を行う権限は与えられていない。」

(2) 本件救済申し立ての労使紛争は、国内において生じた全造船関東地協と日本トヨタとの労使紛争の形はとっているが、その実質は我が国に労使関係が存在しない国外における労使紛争である。

(3) 仮に日本トヨタが「何等かの形で当該フィリピントヨタとフィリピントヨタ労働者ないしフィリピントヨタ労組との労使紛争に関与していたとしても、そのことはフィリピン共和国の法律が適用される場合に問題となるものであるに過ぎない。」仮にこの関与が「事実であったとしても、これらは同トヨタ自動車が出資先の現地法人についての経営の観点からなした対応以上の意味を有するものではないと思料される。控訴人の主張も、単に海外進出企業の『親会社』としての責任や『指導責任』を言うにとどまっており、これらによって、同社とフィリピントヨタ労組との間で、我が国における労使関係が存在したものと評価することはできない。」

(4) ILO第87号条約、98号条約は、締約国にたいしてこの条約の実施のための適当な措置や充分な保護与える義務を課しているが、具体的内容は締約国の裁量に委ねられている。また「上記ILO条約からは、本件におけるような国外における労使紛争につき、国内の親会社に労働組合法を適用すべき義務を負わせているとの解釈を導き出すことは困難である。」国連人権規約についてもILO条約と同じ性格を持つ。

(5) 「本件のように労使関係が国外にある場合、『当該労使関係の規律は、それが存在する国の労使関係法制に委ねるのが妥当であり、我が国の労組法を適用することは、それら外国法制との抵触を生ずる恐れがあり』、妥当でない。」

3)私たちの反論

(1) 不当労働行為を受けたフィリピントヨタ労働者の使用者はフィリピントヨタなのか、それとも多国籍企業トヨタなのかという問題である。フィリピントヨタはこの労働者の直接の使用者であるが、日本トヨタはフィリピントヨタに対する支配権を持っており、正確には多国籍企業トヨタが使用者である。フィリピントヨタの法人としての独立性は多国籍企業トヨタがフィリピンで内国人としての権利を確保するために取る形態であって、フィリピントヨタは実質的には多国籍企業トヨタの一構成部分に過ぎない。したがって直接の使用者であるフィリピントヨタを支配する日本トヨタには使用者性がある。

(2) 国側のように使用者を一方的に海外フィリピントヨタに限定し、労使関係には海外の労使関係と国内の労使関係しかないように語るのは時代錯誤である。なぜならば現在のように企業が世界中で国境を越えて展開しているのだから、使用者を国境を越えた概念として把握しなければ事実関係を正しくつかむことが出来なくなっているからである。そして日本トヨタが国境を越えているのだから労働者が日本の労組に加盟する形で国境を越えることも認めなければならない。

(3) とりわけ、フィリピントヨタ労働者に対する不当労働行為について、日本トヨタが主として日本の地で指示もしくは承認、黙認の形で関与しており、日本トヨタはこの事件の責任を免れることは出来ない。国側は「経営の観点からなした対応」などと曖昧かつ意味不明の言葉を使ってトヨタをかばっているが、まさしくトヨタは「経営の観点から」不当労働行為を指示もしくは承認、黙認を与えたのである。国側はこの不当労働行為での日本トヨタのフィリピントヨタへの関与はフィリピンの法律しか適用されないとしている。しかし、日本の旧法例9条1項は「法律を異にする地に在る者に対して為したる意思表示に付いてはこの通知を発したる地を行為地と看なす。」と明確に述べ、同11条1項で「其原因たる事実の発生したる地の法律に依る」とはっきりと述べている。そして労働組合法には海外に向けた不当労働行為はこれをこの適用から除外すると何処にも述べられていないのである。

(4) 国側はILO87号条約や98号条約や国連人権規約などが海外の労使紛争に国内親会社の労働組合法を適用する義務を負わせているとはいえないとしている。しかし、ILO条約や、国際連合人権規約の内容は不当労働行為から国内の労働者のみならず海外の労働者も救済されるべきことを示している。その場合、確かに海外の労使紛争に過ぎないものであれば日本の労組法が適用されることはないかも知れない。しかし、日本の地で行われた不当労働行為で海外の労働者に向けてなされたものであるならば、日本国政府に救済の義務を課していることは明らかである。そして日本国憲法98条2項は「日本国が締結した条約および確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」としている。

(5) 最後にこの日本での救済はどのようなかたちで行われるのかということである。このような国境を越えた労使関係においては日本の親会社が日本で行った不当労働行為は海外の労働者への直接の行為ではなく、子会社に不当労働行為の指示、承認、黙認を行うかたちで行われるのであるから、その救済は日本の親会社が海外子会社に対して行った指示、承認、黙認を改め、海外子会社の不当労働行為を改めるよう指導させることである。そのことは何等「外国法制との抵触を生じる」ことはない。なぜならば日本の労働組合法上の不当労働行為救済は海外の法律に抵触しないで企業が自主的に実施可能なものであるからである。例えば、現地裁判所がフィリピントヨタ233人の解雇を合法的だと決定したとし、日本の労働委員会が日本トヨタの指示や承認などを不当労働行為とみなし233名の被解雇者の原職復帰を指導するように命令し、現地企業が日本トヨタの指導に従って233名を職場に戻したとしても、それは現地企業の裁量の問題であって、裁判所の決定に何等違反しない。 

 そして、日本の多国籍企業の不当労働行為の救済は日本の多国籍企業に特権を与えるのではなく逆に日本の多国籍企業の特権、横暴を押さえるものであり、現地労働者の権利を増進するものであり、フィリピンに利益を与えるものである。多国籍企業が全世界に展開する時代にあってこうした国境を越える不当労働行為を救済しないなら、親会社の発展途上国子会社の労働者に対する不当労働行為の指示、承認、黙認を事実上野放しにすることになる。なぜならば、先進諸国の多国籍企業は発展途上国において他の多国籍企業と共に現地政府に対して絶大な力を持っており、多くの場合現地政府は現地に不当労働行為を罰する法がありそれにかかわる国際条約も締結しているにもかかわらず、それを無視して多国籍企業の不当労働行為を擁護しているからである。

4)結論

 フィリピントヨタの争議において、@その使用者は国境を越えた多国籍企業トヨタであり、日本トヨタがその司令塔でありフィリピントヨタが実行者である。Aここには多国籍企業の国境を越えた労使関係が成立している。B多国籍企業トヨタの中枢日本トヨタが不当労働行為を指示、承認、黙認するという形でかかわっており、日本トヨタは日本法で裁かれねばならない。Cフィリピントヨタ労働者はILO条約や国連人権規約によっても保護されており、日本トヨタの日本からの不当労働行為から救済されねばならない。D日本労組法によるフィリピントヨタの不当労働行為の救済は何等現地法に抵触するものではなく、日本労組法による救済こそが日本からの不当労働行為の輸出を防止する大きな力になることができる。

                                                      以上