驚くべき労働協約案

  労働者の権利を投げ捨て、労働者を抑圧するための
    トヨタとそれに従う堕落した労働組合指導部のための労働協約

2006年12月1日
フィリピントヨタ労組を支援する会

 今年2月16日の承認投票、フィリピン政府・労働雇用省の7月31日の御用組合の最終勝利決定を受けて、御用組合(TMPCLO)はフィリピントヨタと労働協約(CBA)交渉を行い、すでにCBAへの署名が終わったという情報が来ている。この間フィリピントヨタではこの労働協約交渉とその内容を巡って、会社・御用組合とフィリピントヨタ労組(TMPCWA)の闘いが激しく闘わされてきたが、今後TMPCWAの現地の闘いはより厳しくなるものと思われる。

 111名の現場労働者が承認投票の無効と団体交渉の中止を求めて公然と労働雇用省に訴えた。この労働者の中には多数の元御用組合員が含まれている(御用組合側は80名だといっている)。またフィリピントヨタ労組(TMPCWA)によって御用組合の労働協約案が暴露され、御用組合からの脱退が起きている。さらに、ILO結社の自由委員会が11月「新たな承認投票が、前回の承認投票から発生した争点が裁判所において解決され得ていない前に認可されたことを遺憾とする」と報告した。それに対し会社はTMPCWA現場指導部に対する会社内と家族への嫌がらせを本格的に開始した。

 この闘いはフィリピンだけの問題ではない。フィリピントヨタ労組の闘いが世界に注目され、国際金属労連(IMF)などによってTMPCWAを支援する二次にわたる反トヨタの世界キャンペーンが闘われ、45ヵ国の労組が参加している。多国籍企業の海外での組合つぶしに対する世界の労働者の闘いの象徴となっている。しかしIMF傘下の全日本金属産業労働組合協議会(IMF・JC)はトヨタの母国でこの闘いを傍観してきた。トヨタ自動車労働組合は傍観していただけでなく、2005年フィリピントヨタをわざわざ訪問しTMPCWAを訪問せずにTMPCLOを訪問して激励したのである。

 私達は以下にTMPCLOの労働協約案を示す。そしてIMF・JCとトヨタ自動車労組にもう一度問いたい。「これでも君達はTMPCLOを支持するのか。TMPCWAの闘いを傍観するのか」と。


団体行動権を投げ捨てる

 会社とTMPCLOがほぼ合意に達しつつあるとされる労働協約の内容は本当に驚くべきものである。この労働協約の最大の特徴はTMPCLO指導部が会社の手先になることを宣言し、労働者や他組合から民主主義的諸権利を奪い、労働者を脅して支配しようとしている点にある。

 まず、「産業平和」条項である。通常であれば御用組合は自ら御用組合だと名乗らないものである。労働者の味方のように振る舞い、会社がひどいやり方をした場合には抵抗するかのように振舞うものだが、TMPCLOは開けっ広げである。
 TMPCLO は「産業平和」と称して労働三権の内のひとつ団体行動権を公式に投げ捨て、自ら会社の下僕になると公然と名乗りを上げている。

 ストライキ、バリケード、ボイコット、スローダウンまたは正常な操業および作業日程に支障を来たすその他の行為を含む-----産業平和に対する破壊はないものとする」

 つまりTMPCLOはいかなる場合も会社の操業に支障をきたすことはやらない、決して会社と闘わないと宣言している。


雇用確保の要、事前協議制を放棄する

「会社は、人員の余剰、削減・閉鎖の場合、当組合に事前に正式通知をする。事前の期間は会社がDOLEに法令所定の届を提出よりも少なくとも30日前とすべきである。通知内容は、削減計画の対象となるチームメンバーの人選基準とその他関連事項。会社は通知をしたうえで当組合と協議するものとする。」

 この規定は形式的には事前協議制となっている。しかし中身はそうではない。ここで強調されているのは通知であって協議ではない。またこの「通知内容は、削減計画の対象となるチームメンバーの人選基準とその他関連事項」であって、問題とされているのは「人選基準」であって、その前提となる事業の縮小や閉鎖と労働者の削減は通知内容にすら含まれていない。したがってそれが事前協議の対象になっていないことは明らかである。そのことは次の項を見ればより明らかになる。

(1)会社が一般労働者要員の削減が必要であるとみなした場合には、(2)契約・見習・試用労働者から先にレイオフされるものとする。(3)正規一般労働者のレイオフに関しては、能率・業績、資格および人事記録が同等であるときは、年功により先にレイオフされるものを決定するものとする。」
 〔注:(1)(2)(3)(は引用者が挿入〕

 「会社が---削減が必要であるとみなした場合には」と述べているように削減の必要性は会社によって一方的に決められることになっている。ここには「会社が労働組合と協議して必要を認めた場合には」などの労働者からの歯止めが全くない。問題にされているのはその決定の後の人選基準だけである。つまり、事前協議されるのはここの(2)(3)で述べられている人選基準どおりにことが運ばれているかどうか確認するだけである。

 ところがこの(2)(3)の内容がさらに悪い。会社は契約・見習・試用などの非正規労働者を雇用の調整弁として3割から4割も作ったが、御用組合はこの非正規労働者の存在をそのまま認め、公式に非正規労働者を自分たち正規労働者の雇用を守るための調整弁にしてしまった。

 さらに、正規労働者についても「年功により」というようにいわゆる先任権(解雇・復職・休職・昇進・配転などにおいて、先に採用した人を優遇する政策)を匂わせているが、これもその中身は全く違う。この規定では、年功が問題になる以前に「能率・業績、資格および人事記録」が人選基準として採用されており、会社の恣意的な判断が自由に入ることになっている。つまり会社はほぼ自由に人選できることになっている。結局御用組合指導部と会社の事前協議は単なる御用組合指導部の保身と対立する労働組合の追い落としを図るための協議にしかならないことは明らかである。

 このように御用組合TMPCLOは、団体行動権を放棄しただけでなく、雇用確保の前提となる工場縮小・廃止・移転などの会社の事業計画に対して労働組合の同意はむろん事前協議すら求めていない。彼らは会社と対等な立場で団体交渉することを放棄し、奴隷的に屈従している。しかし、これにとどまらない。


会社にお願いし、労働者を脅す

 御用組合指導部は、組合員になってくれるように労働者にお願いするのではなく、会社にお願いし、労働者には解雇で脅すのである。そして御用組合の組合員籍を持たない労働者からも組合費相当額を会社にお願いして取り立てるのである。この労働協約の最重要点はここにある。つまりこの労働協約はTMPCWAを潰す事を目的としている。

 「会社は - - - 当組合の組合員であるものの雇用継続の条件として - - - 良好な状態で当組合の組合員籍を維持していくよう要求する事に同意する。」

 分かりにくいが、ここで御用組合指導部は、「御用組合指導部はその組合員に組合員籍を剥奪されると解雇になるよと脅すが、会社はそれを認めよ」と言っているのである。もう少し具体的に述べよう。

 まず新規採用正規労働者の問題である。この場合御用組合指導部は、まず会社に新しく採用される一般正規労働者を御用組合に加入することを会社にお願いし、新規採用正規労働者に対しては御用組合に入らないと解雇だよと脅す。

 「今後雇用されるすべての新規一般正規労働者は、 - - - 雇用継続の条件として、正規化の日から30暦日以内に当組合の組合員になるよう要求される」

  また、御用組合指導部は、会社にたいして組合から脱退したり、逆らったりして組合から除名された労働者を全て解雇するようお願いし、脱退したり逆らったりすると解雇になるよと組合員を脅している。

 「当組合は、以下の理由により当組合の組合員の解雇を会社に要求する権利を有するものとする。
 * 当組合からの脱退
 * 以下の理由による当組合からの除名
     ・ 当組合に対する不誠実
     ・ 当組合への組合費およびその他の課金の故意の不納
     ・ - - - 他の労働組織を組織しまたはこれに参加すること

 このようにこの協約案は会社にお願いして解雇を約束させることで、新規の一般正規労働者から労働組合の自主的な選択権を奪い、御用組合からの脱退する権利も奪い、組合指導部に逆らったり、御用組合が公認しない労働者組織を作る権利を奪うものであり、解雇の脅しで労働者を抑圧するものである。

 では現在御用組合に入っていないものについてはどうだろうか。

 「組合員にならないことを決意したものは、協約上の利益を享受する場合は、組合費相当の代理料金を課されるものとする」

 組合員にならなくとも組合費相当額は取りますよということであり、他の組合に入っていると組合費を二重に払わなければならないから直ちに脱退するようにという脱退の強要なのであり、他の組合を財政的に押しつぶそうということなのである。むろん協約から不利益を得ても非組合員に一銭も支払うとは書いてない。

 これがTMPCLOの労働協約案である。これは、会社と会社の手先の利益を擁護する労働協約案であり、労働者の民主主義的権利、労働組合としての権利を剥奪し、労働者を会社と一緒に抑圧するものである。この協約案ほどTMPCLOの性格を端的に示すものはない。酔っ払って労働者を拳銃やナイフで脅す監督職労働組合の委員長によって作られた組合指導部にふさわしい労働協約案である。

 ※ ただし、この2組合並存下のユニオンショップ協定条項はフィリピン労働法によって認められている。フィリピン労働法にはこうした労働者の権利を制限する多くの条項が含まれている。


この労働協約は形式的にも無効

 最後にこの労働協約案は形式的にも欠陥商品であることを指摘しておきたい。すなわち、フィリピントヨタの2度の承認投票(CE)で一般労働者の範囲を巡ってTMPCWAとフィリピントヨタ・御用組合、政府の間で争われており、現在裁判で係争中である。裁判ではトヨタは監督職を有資格者だとし、TMPCWAは無資格者だと主張している。そして政府は2度の承認投票(CE)とも監督職を基本的に無資格者だとした。したがって、もしこの協約が監督職を適用対象に含めるものであれば、高裁判決が新たに監督職を有資格者であるという判決を下さない限り、この協約は無効である。そしてもしこの協約が監督職を適用対象に含まないものであれば、トヨタは2000年の承認投票(CE)では監督職が投票に含まれていないからTMPCWAの唯一団体交渉権は無効だとして団交を拒否し裁判に訴えているにもかかわらず、2006年の選挙では御用組合(TMPCLO)との間で監督職を含まない労働協約を締結しようとしていることになる。この矛盾のため、この労働協約には監督職を労働協約の適用対象に含めるのかどうかについて何も述べない欠陥商品になっている。むろんこのような欠陥商品は無効である。そして厚顔無恥な御用組合は欠陥商品であろうが有害商品であろうが平気なのである。


 日本のトヨタ自動車労組はこんな労働組合を支持し続けるのであろうか。IMF・JCのホームページでは「IMFは----人権・労働組合の自由・民主主義および社会正義を求めて活動する金属労働組合の国際的な団体です」と述べているが、IMF・JCは上記のような労働協約を持つTMPCLOをIMFの適格者とみなしているのだろうか。それとも、IMF・JCは「我々の傘下組合の多数もユニオンショップ協定を会社と結んでおり、TMPCLOの労使協定は立派なものである。我々はそれを支持する」とでも言うのであろうか。この私達の質問への回答をIMF・JC は世界の前で行わなければならない。

 それに対して、IMFのホームページ(06・11・30)は、「執行委員会メンバーはまた、組合活動を理由に解雇されたフィリピントヨタ労働者の職場復帰に向って引き続き闘っていくことを誓うと共に、フィリピンの進歩的独立系諸労働組合との共闘にIMFの努力を拡大していくとの決定を採択した。」という断固たるTMPCWAへの支持を宣言している。

 「IMFは、世界で最も長い歴史と伝統を持つ国際産業別組織(GUF)であり、世界100カ国、200組織、2500万人の金属労働者を結集する、人権・労働組合の自由・民主主義および社会正義を求めて活動する金属労働組合の国際的な団体です。
  IMF‐JCは、日本の主要な基幹産業出である金属産業労働者の結集体であり、電機連合、自動車総連、JAM、基幹労連、全電線の5産別で構成されており、200万人(2005年12月現在)を数える金属労働者を結集する運動体に発展しています。」(IMF・JCホームページより)