<闘いの現状−2006年3月>

新しい段階に突入したフィリピントヨタ労組の闘い!


                                                2006年3月10日

                                    フィリピントヨタ労組を支援する会

 インドトヨタ争議の勃発に見られるように、トヨタがこれまでのような労働組合や団体交渉を否定し、安易に労働者を解雇するやり方を続ければトヨタは世界中に紛争を抱えざるを得ないことが明らかになってきている。

3月16日 国際金属労連(IMF)がマニラ会議
 トヨタの国境を超えた海外での不当労働行為はトヨタの母国日本でも東京と愛知の本社前で、そして労働委員会という公的な場でも糾弾され続けている。そしてトヨタのお膝元にまだ小さくはあるが「全トヨタ労働組合」という企業の枠組を超えたトヨタグループの労働組合が生まれた。それだけではない。昨年来国際金属労連(IMF)はフィリピントヨタ問題に焦点を当て、トヨタとフィリピントヨタ労組の「話し合いの場を設定するように努力して」きた。そして最新のホームページで3月16日にマニラでフィリピントヨタ問題についての日本、タイ、オーストラリア、イギリス、南アフリカなどのトヨタの労働組合代表による会議を開くと発表している。私達はIMFのこの間のフィリピントヨタ問題での努力に敬意を表し、実質的に共同作業を行えていることを運動の大きな前進であると評価している。トヨタは確実に世界の労働者によって包囲されてきている。

新しい段階に突入したフィリピントヨタ争議
 フィリピントヨタの争議が今新しい段階に突入していることを次の事実が示している。 
 第一に、フィリピントヨタ労組エド・クベロ委員長が世界の支援者に報告しているようについにフィリピントヨタ労組とフィリピントヨタ(トヨタ)の間で交渉が始まっている。
 第二に、トヨタが2000年から6年間の歳月をかけて御用組合TMPCLOを育成し、フィリピントヨタ労組が持つ団体交渉権を奪い取ろうと不法で不正な承認投票(CE)を実施したが、この企ては見事に失敗した。

御用組合の承認投票(CE)申請と団体交渉要求のストライキ申請
 この二つの問題は昨年初頭から絡み合いながら進行した。トヨタはトヨタに対する労働者の世界的包囲が急速に形成されて行くのを見て、取っておきの起死回生の手段を使うことにした。
 昨年1月にトヨタは御用組合TMPCLOを立ち上げ、前回のTMPCWAが勝利した承認投票(CE)から5年が経過したとして、2月にこの御用組合を通じて新しい承認投票(CE)をおこなうように申請した。それに対し、フィリピントヨタ労組はフィリピントヨタの団体交渉拒否を理由としてストライキの申請を行った。このストライキ申請に労働雇用省が介入し、労働雇用省はトヨタに団体交渉を行うようにという斡旋案を出さざるを得なかった。

 しかしトヨタはその回答を延ばし続け、労働雇用省にすがって6月30日御用組合の承認投票(CE)申請を認めさせた、これはフィリピントヨタ労組の団体交渉権を不法に事実上反故にするものだった。しかしそれに対し世界中からフィリピン政府とフィリピントヨタに対する抗議のメールとFAXの嵐が寄せられた。フィリピン政府とフィリピントヨタは追い詰められ、通常であれば承認投票(CE)の承認の後直ちに行われる予備会議は事実上延期された。そしてフィリピントヨタ(トヨタ)は「国際組織」の仲介でフィリピントヨタ労組との直接交渉に応ずるポーズを取った。

直接交渉と承認投票の実施
 会議は日本で何回か行われたが、3ヶ月を経てもフィリピントヨタは具体的な提案を何ひとつ出さなかった。12月フィリピントヨタ労組はフィリピントヨタにまず解雇問題についての具体的提案を出すように強く迫り、トヨタは1月に具体案を出すことを約束した。しかし、その5日後労働雇用省長官は承認投票(CE)実施に向けた予備会議を決定した。それ以後フィリピントヨタと労働雇用省は承認投票に向けての共同作業に入った。フィリピントヨタ労組は本来この承認投票(CE)は法手続きに違反しており無効であるとして、CEの一時差止めを高等裁判所に訴えた。しかし労働雇用省はそれを無視して選挙を2月16日に実施することを決定した。

トヨタの思い上がった最後通牒と承認投票(CE)の強行
 そしてトヨタは1月の回答の約束を破り、承認投票日直前の2月4日にやっと解雇問題についての具体案を出して来た。そこでフィリピントヨタ前社長田畑は、(1)これは最終案である。 (2)被解雇者は「トヨタの解雇は正当であった」という合意書にサインしなければならない。 (3)試験に合格した者を自動車機械工になれるよう研修に受け入れると、暴君を気取った最後通牒を突きつけた。

 フィリピントヨタ労組はこの労働者を愚弄するトヨタの回答を拒否し、全世界の労働者に交渉経過の概要を伝えると同時に、フィリピン政府とトヨタへの承認投票(CE)中止を求める抗議を要請した。抗議期間が限定されていたにもかかわらず800を超える組織等からの抗議があった。
 しかしトヨタは選挙を強行することにした。選挙での勝利を前提として解雇問題等の解決を図ろうとした。しかし、トヨタの思い通りにはならなかった。

承認投票の結果ートヨタの敗北
 投票結果は御用組合424票、フィリピントヨタ労組237票、組合はいらないとする「No Union」8票、無効票15票、開票されなかった被解雇者票89票、同じく開票されなかった監督職票121票で、有効投票数は無効票を除いた879票であった。この選挙結果からは選挙の勝利のためには有効投票数の過半数(半数+1票=)は441票となる。この投票結果を踏まえて労働雇用省は短ければ近日中に、長くとも2、3ヶ月中には公式の決定を下す。それに先立って、エド・クベロ委員長はこの不法で不正な選挙でも「御用組合は過半数を獲得できなかった」と発表している。
(*投票結果の解説は下段を参照されたい)

 その結果、トヨタは今回の選挙で2000年選挙でのフィリピントヨタ労組の勝利はご破算になり、今回団体交渉権を持った労働組合はできなかったという立場であると思われる。それに対しフィリピントヨタ労組は、今回の選挙はフィリピン法に反し無効であるから2000年の選挙で勝利したフィリピントヨタ労組が今も団体交渉権を持っているという立場になる。御用組合は「TMPCLOはフィリピントヨタ労組に勝った」「過半数を超える組合はなかった」といっているが公式の立場は不明である。どちらにしろ、トヨタは万全の体制でこの選挙に臨んだ。しかし、トヨタは事実上敗北した。

トヨタのなりふりかまわぬ攻撃の中で
 フィリピントヨタ労組は大きく前進
 トヨタとその子会社フィリピントヨタは日本の労働組合法もフィリピンの労働法もILO憲章、ILO勧告、フィリピン最高裁判決も無視し続けてきた。今回の投票も労使が争議状態にあるためフィリピン法では禁止された不法なものであった。しかもトヨタは可能な時間と人と金を全て投入してこの投票戦を行った。御用組合は就業時間も会社施設もフルに組合活動に使った。
 それに対して会社はフィリピントヨタ労組の被解雇者と現場従業員の組合活動をガードマン、軍隊はむろんあらゆる手段を使って制限した。投票当日もフィリピントヨタ労組委員長も含む被解雇者を一般労働者の投票所から排除し、事実上フィリピントヨタが選挙を取り仕切った。トヨタにとって承認投票(CE)は絶対に勝てるはずだった。

 トヨタにとってこの6年間の争議と1年間の承認投票戦の成果である投票結果は全く意に反したものであった。解雇して放っておけば組合はつぶれるとトヨタは安易に考えていたが、会社側が6年もの歳月をかけても被解雇者134人(89人の投票者以外に48人が海外や遠隔地にいて投票に参加できなかった)を崩すことが出来なかった。 その上会社の役員から管理職や監督職組合、その上部団体、そして御用組合TMPCLOの買収や恫喝にもかかわらず、237人がフィリピントヨタ労組に票を投じた。2001年3月233人が解雇され、一緒に70人が停職にされたが、工場内でこの70人の3倍を超える労働者がフィリピントヨタ労組に票を投じた。闘いの中で強固な労働者が成長してきていることをこの投票結果は示した。フィリピントヨタ労組は、世界の世論とともに世界の労働者の支援の拡大の中で地域の仲間にも支えられて大きく前進してきた。

トヨタはどうするのだ。
 フィリピントヨタ労組はILO憲章もOECDガイドライン、日本労組法、フィリピン労働法等世界が勧める団体交渉に応じよと要求している。団体交渉を要求した抗議行動を理由にした不当な解雇を撤回せよと要求している。フィリピントヨタ労組は労働組合の正当な権利を要求しているだけだ。トヨタは正当な労働者の権利を認める以外に解決はないことをそろそろ思い知るべきなのだ。トヨタはグローバル企業としての社会的責任を決して免れることが出来ないことを悟るべきなのだ。

闘いの輪は今新たな広がりを持ち始めている。そして、私達は決して闘いの手をゆるめないつもりだ。


* 選挙結果解説 *

  開票   フィリピントヨタ労組 237
        御用組合       424
        非組合           8
        無効票          15
  未開票  被解雇者        89
        監督職         121
  合計                894    −15 = 879 

 フィリピン法では、判決で解雇が確定するまでは被解雇者も会社従業員と認定され投票権があるとされている。フィリピントヨタ労組には2001年に解雇された233人の中で退職金を拒否して最高裁に訴えている人が134人いる。フィリピントヨタ労組はこの人たちの投票権を要求したが、労働雇用省は最高裁判決確定後のみ開票するとしている。
 また、フィリピンでは一般労働者の組合と監督職の組合が別に認められている。今回の承認選挙は一般労働者の組合であり、監督職は投票権がないので、フィリピントヨタ労組は最高裁決定にしたがって監督職(レベル5‐7)には投票権はないと主張した。しかしトヨタと御用組合は最高裁決定のあと組織再編が行われており、レベル5‐7は一般職であると主張し合意が成立しなかった。

 この未開票の票は、フィリピンではチャレンジ票といわれ、当事者(労働雇用省、当事者組合、会社?)の間で投票権があると合意できなかった場合、投票はされるが開票されない票である。この票は当事者(労働雇用省、当事者組合)の間で合意が成立すれば開票するか有効投票の中に含めないこともできるが、合意が成立しなかった場合は未開票のまま有効投票として数えられる。

 前回の選挙では、フィリピントヨタ労組賛成 503 反対 440 無効 15 未開票監督職 105であった。この承認選挙の当事者は労働雇用省とフィリピントヨタ労組であり、労働雇用省もこの監督職票を最高裁決定に基づいて投票権のない無効票と見なしていたためフィリピントヨタ労組が有効投票数943票の過半数を取り信任されたとみなし、団体交渉権を持つ組合と認めた。

 今回は894票から無効票15票を引いた879票が有効票とみなされている。まだ労働雇用省の最終的な決定はでていないが、フィリピントヨタ労組237も御用組合424も過半数に達していない。御用組合とトヨタは121人の監督職票には投票権があると主張して来たためこれを無効票にはできないし、フィリピントヨタ労組の反対で開票の合意もできない。また退職者票を無効票とするのも無理がありすぎる。そのためフィリピントヨタ労組はトヨタと御用組合は勝利できなかったと宣言した。