動物の献血について

                                                       最終更新日2010年3月22日

 ポチくんは2009年12月18日に左肩下にしこりが見つかりました。すぐにかかりつけの動物病院にかかり、紹介された検査機関でCT検査を受けた後、さらにかかりつけ病院から腫瘍専門の病院を紹介してもらいました。
 2010年1月6日に詳しい検査をするために専門病院に預けた後、間もなく急変し、3回目の呼び出しで駆けつけた直後にポチくんは息を引き取りました。
 ポチくんは急変後、輸血が必要になり輸血によって一時的にせよ持ち直しました。その時に私達はお金に代えられない血液のありがたさを感じる一方で、それ以降の血液の確保をどうしたらいいのかわからず困り果てました。
 現在のところ、動物医療の現場では人間のような献血システムは整っていません。一部の動物病院では献血制度を設けているところもありますが、あくまでも一部の病院であり、そのような病院でさえも血液は不足しています。従って、動物医療自体が高度に進んでいるのにも関わらず、血液不足のせいで救える命も救えないことがあります。
 当然、動物にも輸血は行われていると言うことは考えてみればわかることですが、こんなことにならない限り現実のこととして考えたことはありませんでした。
 計画的に輸血を行う場合は、準備ができます。しかし、輸血が必要になることは突発的なケースの方が多いと思われます。その血液の確保は病院だけで全てできるわけではない、と言うのが現状です。

 面識のない方の愛犬から貴重な血液をポチくんに頂いて、本当にありがたい、ありがたい、心からありがたいと思いました。
 そのお返しに何ができるのか考えた時、このような現状をみなさんに知って頂くこと、それが私達のやるべきことだと思いました。
 ほとんどの飼い主さんが私達と同じような経験をすることなく、愛犬は寿命を全うできることでしょう。こんなケースは本当に万が一だと思います。でも、その万が一の事態に至った時、当事者も協力者も知識がゼロのところから事がスタートするとパニックになることがあります。厳しい現実に向かわされた時でも、予め知識を持ってできる範囲の準備をしていれば、上手く困難を乗り越えられることがあるのではないでしょうか。
 この献血のお話はできるだけたくさんの方に読んで考えて頂きたいと思います。読んで頂く方がどんなに熱心でも、少数であれば、献血協力の輪は広がりません。皆さんのホームページやブログにリンクして頂けたら幸いです。


 検査のために最後に行った専門の病院から献血に関する資料を頂きました。
 許可を得て、その資料を以下に転載します。
         献血ご協力のお願い(犬)

 人間では献血や血液製剤供給のシステムが確立されていますが、小動物医療においては、現時点で緊急時に備えて輸血に対応できるシステムが整っておりません。輸血は血液成分(主に赤血球、血小板あるいは血液凝固因子)の量や機能が低下した時に、それらを補うために実施されます。例えば、重度の貧血では各臓器が低酸素状態になったり、血小板が減少すると血液が止まりにくくなったりします。また、血液凝固因子が不足すると播種性血管内凝固(DIC)と呼ばれる危険な病態に陥ってしまうこともあります。一方、適切なタイミングで十分量の輸血がなされた場合、落ち込んでいた動物の状態が劇的に改善することも多く、獣医領域における輸血治療は、他の治療に代えられない、極めて重要な役割を担っています。

理想的な献血犬の条件
 ■10kg以上、理想的には25kg以上
 ■1歳〜7歳くらいまで
 ■各種予防(フィラリア予防、狂犬病ワクチン、混合ワクチン)を毎年実施していること
 ■現在、大きな治療(抗癌治療や骨折の治療など)を受けていないこと
 ■雌犬の場合、子供を産んだことがないこと
 ■過去に輸血を受けたことがないこと

献血前に行う検査と時間
 ■献血犬の身体検査および一般的な血液検査(約1時間)
 ■身体検査および血液検査で異常(値)が認められない場合、献血犬と受血犬(輸血される側)の血液を試験管の中で
  適合させ(交差適合試験あるいはクロスマッチと呼ばれます)、溶血(赤血球が壊れること)あるいは凝集(血球が固
  まること)の有無を確認します(約2時間)。

献血量について
  体重1kg当たり20mlの血液量に安全係数(0.8)をかけた量です(例:25kg×20ml×0.8=400ml)。健康犬では全血液量
  の1/3(例:25kgの犬では約750ml)が失われても、生命に支障をきたさない事が過去の研究で証明されています。

●採血の方法
 ■採血時間を短縮し、献血犬の負担をできるだけ軽減するために、通常は頸静脈(首の血管)から採血されます。
 ■安全に採血するため、ワンちゃんの性格によっては、採血時に鎮静処置が必要な場合があります。
 ■十分な消毒をするために、頸部の毛を一部刈ることがあります。
 ■採血時間は10〜15分程度で完了します。
 ■採血部の止血が確認できたら献血は完了です。

●献血時および献血後の問題について
 ■献血後は鉄剤が2週間処方されますが、一部のワンちゃんは鉄剤投与後にお腹を壊すことがあります。鉄剤投与後
  に便が緩くなるようでしたら、鉄剤の投与を中止し、当センターまでご連絡頂けるようお願い申し上げます。
 ■一般的に、献血後に献血犬の体調が崩れることはありませんが、万が一、献血後体調がすぐれない、あるいは体調
  の変化にお気づきになりましたら、当センターまで遠慮なくご相談ください。
 ■鎮静剤が使用された場合、まれに覚醒の遅れ、流涎(よだれを垂らすこと)、吐き気、アレルギー反応などが認めら
  れる場合があります。万が一、このような状態が認められた場合、対症的な治療が適応となることがあります。
 ■輸血中、受血液犬に異常が認められ輸血行為が中止される場合があります。その場合、未使用の血液に関して
  は、献血犬の飼い主様とご相談の上、輸血が必要な他のワンちゃんに使わせて頂くことがあります。


 輸血を受けた経緯
 2009年12月18日に最初にしこりに気づいた時は梅干し大でした。
 最初にかかりつけ病院を受診した時、このしこりの中で出血していることがわかりました。その後どんどん腫れが進み、最後には左肩下から腰くらいにかけて全体的に大きく腫れていました。
 いくら悪性の腫瘍でもこんなに急激に大きくなることはあり得ないと考えていたので、私達は「悪性の病気ではない」と思っていました。
 右の写真は12月27日にCT検査を受けた時の画像です(左右反転)。かかりつけ動物病院ではこの腫れが腫瘍の成長のように考えていたようです。
 しかし、1月6日、検査のために専門病院へ預けた後にこれが破裂して、実はしこりの中の出血が持続していて大量の血液がたまっていたことが分かりました。破裂によって体内で大出血が起こりました。しこり自体は梅干し大のままでした。
 また、破裂前に行なった血液検査でDIC(血管内播種性凝固症候群)と言う病態に移行しつつあることがわかりました。
 ポチくんの体内では持続的に出血していたので、体が血液凝固因子をどんどん使って出血を止めようとする方向に働き、体中に小さな血栓が無数に発生し、その結果として、逆に凝固因子が不足して、さらに出血しやすい状態になっていたのでした。それに起因して全身の臓器が機能低下していた可能性もあります。
 出血しやすい状態なので、病理検査など予定していた検査は出来なくなりましたが、症状から考えて「血管肉腫」の可能性が高いと言われました。血管肉腫の場合、このようなコブの破裂が起こらずとも、非常に厳しい状態になるそうです。
 1回目の呼び出しで、以上のようなポチくんの状態の説明と輸血(新鮮血、保存血)や凝固因子投与の話をされました。この時、輸血が必要になった場合は、1回目については病院で手配するが2回目以降はできるだけ飼い主の方で献血犬を探して欲しいと言われました。保存血より新鮮血の方が望ましいと言う説明もありました。

 その後、一旦、帰宅した後にポチくんは脈も触れない状態になったらしく、緊急輸血が行われました。2回目の呼び出しで私達が病院に着いた時には「今晩持つかどうか」と言われたものの、すぐに安定し始めたし、翌日の検査の予定の話もありましたので、それほど危機感を感じませんでした。夜7時半頃、ひとまずほっとして私達はまた帰宅しました。
 しかしそれから2時間後に3回目の呼び出しがあり、病院に駆け付けた直後、夜10時頃にポチくんは息を引き取りました。
 DICが進んで非常に出血しやすい状態になり、最後には脳で出血を起こし、それが死因となりました。

 供血に感謝
 結果的に輸血終了後2時間ほどしか持ちませんでしたが、ポチくんは脈も触れずぐったりした状態(写真左下)から、輸血により確かに首を持ち上げて立ちあがろうとするところ(写真右下)まで回復しました。血圧も体温も回復してきました。
 そのポチくんを見て、血液を頂けたことに本当に感謝しました。結局はダメであったけれど、それでも輸血して頂けたことに深く感謝しています。どこのどなたかわからない方の愛犬から頂戴しました。お金に代えられない貴重なものだと感じました。

 動物医療現場での血液不足
 しかし、そのように感謝すると同時に、厳しい現実が待っていました。
 輸血で持ち直した時に先生から聞いた話です。大出血による貧血は輸血で回復しましたが、命を終末に向かわせるDICはしこり(血管肉腫?)を取らない限り進行し、そのしこりを取るには安定した量の血液が必要だと言われました。
 先の説明で、2回目以降の輸血の血液(新鮮血)はできるだけ飼い主の方で確保してほしいと病院から言われていましたから、時間ももう遅くなっているし、それをどうするかが大きな問題でした。
 病院でもいつも血液の確保に四苦八苦しているそうです。
 誤解のないように書いておきますが、もし私達が新鮮血を確保できなかったとしても、保存血を使うなど何らかの方法により、与えられた条件の範囲で最善の治療を行ってもらえます。

 誰から供血してもらうか
 輸血でひとまず安定したポチくんを見届けて帰宅した私達は、どうやって血液提供者を探すか困り果てました。
 献血可能な動物の条件は厳しく、知り合いのワンコの中には条件が合致する子は思い当たりませんでした。
 とにかくこの時はホームページに載せる方法しか思いつきませんでした。知り合いから知り合いへホームページを見るように話を広げてもらって、我が家の窮状をたくさんの方に知ってもらい、「協力しましょう」と誰かが名乗り出てくれるのを待つ方法しか思いつきませんでした。
 もう時間が遅い(夜の9時過ぎ)、今からメールを送っても今日中に見てもらえない、明日になったら会社に行ってしまう、そうしたらポチくんのことを知ってもらえるのは、明日の夜???? それじゃ、遅すぎる!
 何としても早く血液を確保せねば、、、早くしなきゃ、、、 走っても走っても前へ進めない夢を見ているようでした。
 ホームページのトップページに書き込みを始めた直後に、3回目の呼び出し。
 私達が病院に到着してポチくんが息を引き取るまで1分あったかどうか。
 輸血で持ち直して明日が来ると思っていたのに、、、、、 すごくショックでした。
 後から思ったのですが、私達が困っていたことをポチくんは察し、これ以上困らせないように逝ってしまったのではないでしょうか。

 病院の話では、献血はやはり知り合いの方から全くの善意で協力して頂くのが一番良いと言うことです。
 ネットで見つけた見知らぬ人から献血を受けた場合に、報酬のことでトラブルになったケースがあるそうです。
 その点で、ホームページにどう載せるかポチ父と話し合った結果、「検査費用は当方で負担しますが、献血は無報酬でお願いします」と書くことになりました(あくまでも表向きに書く内容)。
 でも、ポチ母の本心は高額な報酬を最初からド〜ンと書いても良いと考えていたのです。とにかくすぐに血液が欲しい、トラブルが起こったらその時に考えれば良い、「無報酬」と最初に書いてしまえばすぐに血液が見つからない可能性がある、それが一番怖かったのです。
 報酬面でトラブルが起きても、とりあえず血液が確保できてポチくんの命が救えたなら、それで構わない。だって、上述の通り、血液はお金には代えられない大切なものですから。
 でも、そういう風に考えるのは、切羽詰まっていたからではないでしょうか。

 いざと言う時のために普段からのお付き合い
 しかし、上述の資料を読んで分かって頂けたと思いますが、献血の条件が厳しく条件に合致する子を見つけることすら大変です。そして、たとえ条件が合致する子が見つかったとしても、そのお願いはとても気がひけます。
 先ずは検査のために病院に足を運んでもらわねばなりません。そのために飼い主さんに会社を休んでもらう必要だってあるかも知れません。
 そして何よりもよそ様の愛犬の首の血管から血液を抜かせて頂くのです。わが子にそれをするとなると、ちょっと考えませんか?
 そして、献血に関してはgive and takeの関係が成り立ちません。一度輸血を受けた子は供血できませんから、供血犬と受血犬との間では、与えることともらうことは、いずれも一方通行です
 それでもそれをお願いできる関係でなければ、お願いできない。
 だから親しいワンコ仲間を普段から作っておく必要があると思います。
 しかし、距離的に遠い人ではこのような場合に力にはなれません。また、必ずしも血液が適合するとは限らないので、距離的に近い仲間が複数必要です。
 さらに、お互い年を取っていくので、常に新しい仲間を増やしていく必要があります。

 こういうことになってポチ父と後悔しました。ポチくんが小さい時、週末は良く所沢の航空記念公園へ遊びに行っていました。自然とワンコがたくさん集まるところがあって、そこで飼い主同士仲良くなっていたのです。ポチくんはワンコより人間の方が好きでしたから、色んな飼い主さんになついてみんなに可愛がられていました。しかし、いつの間にか行かなくなっていました。「それを今でも続けていれば、頼める人がいたかも知れないな」とポチ父と話をしました。

 大型犬の飼い主さんは特に万が一の備えが必要だと思われます。
 大型犬は供血する場合は大きく貢献できますが、受血の立場になった時、血液の量的確保が大変です。
 また、既に献血可能な条件から外れている子の飼い主さんは、なおさら日ごろのお付き合いが重要なのではないかと思われます。

 日ごろの健康管理
 愛犬のために愛犬の健康管理にはみなさん気づかっておられると思いますが、それが他のわんこへの貢献につながるとはあまり意識したことがないですよね。


 
 獣医さん達によって広く一般的に献血システムが確立されるのは、まだまだ先のようです。
 輸血が現実のこととして考えられない元気な時にこそ輸血のことを知って頂きたいと思います。
 「もしもの時はみんなで協力しましょうね」と言う話しの輪がわんこ仲間の間で広がり、お近くに献血制度を設けた動物病院がある場合は適合者は積極的に協力し、お仲間うちはもちろん見知らぬ人でも血液を必要としている方を見つけた場合にはすばやく行動に移して頂けるような、そんな献血協力の輪が広がっていくことを望みます。
 長くなりました。最後まで読んで頂いてありがとうございました。