『ブレイキング・バッド』の死体積算表

『ブレイキング・バッド』は、その着想の斬新さと予想外の展開で高い評価を得たアメリカのTVドラマである。
主人公ウォルター・ホワイトは、初老を迎えた高校の化学教師。若く美しい妻は第2子の出産間近。息子は脚が不自由だが利発で素直。ささやかながらも幸福に暮らしていたウォルターだったが、ある日肺ガンの告知を受ける。
余命わずかな中で家族に金を残そうと考えたウォルターは、化学の知識を活かして覚醒剤の密造に手を染める。

まったく自覚していなかった才能に目覚め、悪の道に突き進んで(Breaking Bad)いくウォルターの姿が見所であるが、それに伴って死体の山が築かれていく。

作中何人死んだのか、改めて数えてみた。
死亡態様は、ウォルターが殺害、ウォルターの指示で殺害、ウォルターが起こした事態により死亡、無関係の4つに分類した。
基本的に、覚醒剤をめぐるカルテルの抗争で発生した死者は、全部ウォルターのせいとしてカウントした。結果は以下の通りである。

ウォルターが初めて自身の手で人を殺すシーズン1・第3話。
ウォルターの回想で、人体の構成要素は水素63％、酸素26％、炭素9％、窒素1.25、カルシウム0.25、鉄0.00004、ナトリウム0.04、燐0.19で、合計しても100％にならないとの会話がインサートされる。
つまりその余剰分こそが｢人間性｣であり、ウォルターはこのとき、人間を人間たらしめる何かを失ったのである。

総計266人。

シーズン2最終話の旅客機事故で一気に跳ね上がるが、それを抜きにしても100人近く死んでいる。
この表を作るために2回目完走したが、改めて観てみると、呼吸をするように嘘をつくウォルターの異常さが際立つ。彼は家族のためと称して罪を重ねていくのだが、最後の最後に、全ては自分のためだったと告白する。自分には犯罪の才能があり、才能を十全に活かすのが楽しかったのだ、と。
家族のためという甘い幻想に逃げ込むことを許さず、ウォルターにそう言わせたのが制作者の見識であろう。これは、望まれぬ才能を持ってしまった男の悲劇なのである。