軍隊の階級構成に関する基礎知識


マンガ、アニメ、ラノベその他、日本のフィクションにおける軍隊の描写はだいたいめちゃくちゃである(『幼女戦記』はマシな方)。
一番ダメダメなのが、階級と年齢、職責、技能の整合が取れていない点だ。
階級というと、たぶん皆さんこういう図を思い浮かべるはずである。国により時代により違いはあるが、概ね標準的な序列はこんな感じ。





これは間違いだ。




いやまあ、偉い順に並べれば確かにこうなるので間違いは言い過ぎかも知らんけど、誤解の元ではある。
正しくはこう。





士官と下士官・兵は求められる役割が違うので、そもそもの入り口が違うのだ。
士官は、方針・ビジョンを示し、計画を立て、命令を下し、遂行状況を管理する役。
下士官は、その計画を実現するために専門的技能を提供する役。兵隊は手足である。

一般社会に即して言えば、士官が総合職。下士官が専門職。
もっとぶっちゃけて言えば、こうです。






士官は大卒、下士官以下は高卒。士官学校は大学の一種という位置づけになる。

兵隊は任期が2から3年と決まっていて、いわば非正規雇用だ。任期が切れるごとに契約更改するか除隊するか選ぶことができる。契約更改は任意に可能だが、昇任はそこまで。
そのまま軍隊で生きていこうと思えば、昇任試験を受けて下士官にならねばならない。晴れて合格すれば、定年まで勤められる正社員になれる。なお、士官はデスクワークが主になるため、あくまで現場で技能を極めたいという人(例えば一生ジェット戦闘機をいじっていたいという人など)は、大卒でもあえて兵隊から下士官のコースを選ぶ場合もある。

これも誤解が多いが、准尉は士官の一番下ではなく、下士官の最高位。従って、准尉といったら定年間近のおっさんです。









なお、職業軍人という言葉はProfessional Soldierの直訳で、戦後に入ってきた言葉。旧日本軍の本物の軍人は、「職業」という言葉に金儲けのニュアンスを感じ取って「職業軍人」という言い方を嫌う人が多いそうだ。


一方、士官は大卒で幹部候補として採用されると少尉に任官する。と言っても、少尉、中尉は入社して2,3年のペーペーであり、現場で失敗して怒られるのが仕事である。
それでも初級指揮官の配置につけば、自分の父親のような年の下士官を部下に持つことになる。ベテランの下士官は若手士官を鍛えるのも仕事のうちと心得ているので、部下のため任務のために一生懸命務めている限りは、全力でサポートしてくれます(もちろんダメなら見捨てられます)。

この辺、海上自衛隊ははっきりしていて、「幹部及び2尉3尉」という言い方をする。つまり2尉3尉はまだ幹部扱いされていないわけ。
だいたい一人前、仕事をまかせて大丈夫とみなされるのは大尉の後半、入社して7〜8年くらいから。一般社会と一緒です。
もっとも実戦では、若くても有能な人ならどんどん抜擢されるので、20代で大佐という実例もある。逆に言えば、それができない硬直した軍隊は勝てない。


一方、下士官から選抜試験を受けて士官になる道もある。



そのため、30代の少尉もいることはいる。こうした部内昇任組は、受験資格に年齢の上限が定められており、また大卒組より任官が遅くなるため、一般的に言って出世には限界がある。ちなみに、下士官から士官になると職務内容も求められる能力も激変するため、昇任に伴って精神のバランスを崩してしまう「昇任うつ」という現象が知られています。


以上、アニメ鑑賞のお供に、階級に関する基礎知識でした。