恋風 ラストシーンの語るもの

アニメは日常的な動作を自然に描くのが、いちばん難しいと言われる。その点で、本作はとんでもない作画アニメだ。
部屋から廊下に飛び出してきて壁にぶち当たりつつ向きを変え、泣きじゃくりながら画面手前へ走ってきてOUT(しかも全身像)、というような気が狂いそうな作画をいとも簡単に披露している。

さて、一見放りっぱなしに見える本作の結末。ついに結ばれてラブラブハッピー、という状態でエンドの割には、苦い感じが残るはずだ。その原因はおそらく、遊園地と桜並木である。2人が出会った思い出の場所の遊園地、観覧車、それに桜並木。いずれも、取り壊されることが決まっているのが描写される。意味するところは明らかだ。こんな幸せが長続きするわけがない、破局は目前に迫っているという暗示である(「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」にクチナシの花が落ちるシーンがありましたね。あれは、杉浦日向子へのオマージュなんだそうで)

これを踏まえて観ると、立ち去る七夏を見送る耕四郎、というラストカットには別の解釈が可能になる。
見事な演出である。


それはそうと、「たけくまメモ」を読んで初めて知ったのだが、吉田基巳って女性なんですね。絵柄といい、言われてみれば思い当たる節が。もともと、いちばん障害の大きな恋愛のシチュエーションは何か、と考えた末の設定なのだそうで、妹萌えムーブメント(そんなものが実在するとして)とは一線を画すべきだろう。

蛇足ながら最後に生々しい話。近親相姦て、現実にはそんなに珍しいことじゃないらしい。その大半は父−娘、兄−妹という強姦になるそうだから、やはりこれはおとぎ話だ、ということだ。コミックLO掲載の嶽本八美「無防備年齢宣言」は必読。ロリペドマンガなので単純比較は無意味だが、冷徹な現実、というものを活写してます。
なお、人類社会は、文明度にかかわらず近親婚をタブーとしているが、先日読んだ「人はなぜペットを食べないのか」によると、これは劣性遺伝を防ぐ本能的な理由よりも、近隣社会と積極的に交雑して親類縁者=味方を増やすのが目的だったらしい。つまり政略結婚を促進するために、血族婚が禁止されたのである。