マスキシステム(有)
     大電力パワーアンプ
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シングルアンプは 中電力のページで設計方法を解説しています

ここでは LDMOS−FETを使用したプッシュプルでのアンプ設計を説明します

全体の考え方として シングルアンプをバランス接続し合成する事を中心に説明します


             470〜770MHz    50W−AクラスAMP




設計手順


@ 出力側負荷インピーダンスを決める

  所要電力を 半分ずつシングルアンプに割付 シングルの考え方で決めて構いません



  最大出力電力 50wのアンプを考える時  ( 電源電圧 28V 時 )

  片側25wですが インピーダンスを考える時 DC供給電力は2倍の 片側50wとし

  デバイス内部抵抗と所要負荷抵抗値を計算します

  RF電圧実効値 = 28 ÷ 1.414 = 20v

  R = E x E /W = 20v x 20v /50w =8Ω

  これを内部抵抗と負荷抵抗に振り分けます

  内部抵抗 r=4Ω以下で 負荷 Z=4Ωであれば25W出力が可能です

  内部抵抗はデバイスごとに最低値が有り 普通データシートに記載が有ります

  これに合わせた負荷インピーダンスで出力すると最大出力が出せます

       * 最大出力可能電力条件 r = Z


A デバイス電流

  Aクラスの場合最大効率が50%なので 片側25W取り出すには 50W消費させます

  I = P ÷ E = 50 ÷ 28 = 1.8A

  両方で 2倍の 3.6Aを DC電流として流す必要が有ります

  Bクラス、Cクラスの場合は 入力信号のレベルに合わせて 電流が増えていきます

  利得はAクラスより下がりますが 電源効率は上昇します

  インピーダンスに対する考え方は同じです


B インピーダンス変換

  FETのドレインから負荷側を見た時のインピーダンスは必要パワーに合わせて

  設定しましたが 最終的にはケーブルインピーダンスの50Ωにする必要が有ります

  1つの周波数で変換する事は比較的簡単ですが 広帯域にインピーダンスを変換

  することは かなり大変です

  PA設計が出来るメーカー/技術者が少ない理由も 此処に有ります


  【 例 】

  最終片側 25Ω バランス出力で 50Ωに成るような変換回路構成をします

 上記 8Ω を 50Ωにするには 1:4バルンを活用し

   8Ω --> 12.5Ω ―> 50Ω      (バルン 12.5 ―> 50 )

   8Ω ―> 12.5Ω は 1段 又は2段の LC回路で行ないます

   デバイスに存在する出力の容量分も LCに含めてうまく消す必要が有ります

  変換の方法や注意点は シングルアンプと同様ですが プッシュプル動作ですので

  バランス出力となっています

  平衡出力を 不平衡出力に変換する回路が必要と成ります

  大きい電力を扱いますので 市販品は殆ど有りません

  コアと同軸ケーブルを使用し自分で作る必要が有ります


C 入力インピーダンス

 入力側も バランス回路が必要です 180°位相差を持たせ2分配します

 分配後は各々のデバイスの入力インピーダンスに合わせます

 入力容量が大きく 抵抗値も低い場合が多いので 広帯域化は結構苦労します


D 実設計に於けるパワー設定

  CW、FMの場合はこれで良いのですが AMやデジタル変調ではもう少し

  出力パワーに対し配慮が必要です

  10W AM変調の場合

  AMで100%変調を掛けますと 変調波のピーク電圧は無変調時の2倍に成ります

  電圧が2倍に成りますと オームの法則により電流も2倍となり 瞬間の電力は4倍です

  つまり 40Wまで直線性が延びていないと 変調は歪んでしまいます

  デジタル変調も 方式によっては バックオフ 7dB〜10dB必要とする場合が有ります

  つまり 10Wの送信機の実力は100W程度必要と成ります


E バイアス電圧 ( ドレイン電流 )の考え方

  Aクラスで動作させるには 効率はMAXで50%ですが 通常30%程度です

  ピークパワーに合わせて ドレイン電流も流します

  10WのAM変調送信機は MAX40W−RF出力 効率30%で 120W DC電力

  DC=25Vでは I=4.8Aとなります (効率50%でも I=3.2A 必要)



F 入力マッチング回路での注意

  FETのゲートのインピーダンスは 数Ω以下 並列負荷容量もかなり大きいのが

  普通です

  峡帯域の場合は 50Ωから FETのインピーダンスに変換すれば良いでしょう

  中帯域では 2倍を目安に 何段かで変換します

  広帯域ですと 全ての周波数を50Ωに変換するのは至難の業です

  広帯域のインピーダンス変換バランなどを上手に使いこなす必要が有ります

  又 入出力とも 50Ωにマッチングを取りますと 周波数の低い方がゲインが高く

  周波数の高い方はゲインが低くなり 周波数に対しフラットな特性は得られません

  周波数の高い方を50Ωに成る様マッチングを取り 低い周波数は移動させずに

  ロスしても許容すると 全体ゲインがフラットにしやすい場合も有ります


G 周波数特性 (広帯域化)

  広帯域化の要素は 2つ有ります

  A.最大出力(飽和電力)のフラット化

    FETの出力回路のマッチングのみで決定します

    負荷容量打消しとインピーダンス変換テクニックで決まります

    広帯域化は 負荷容量をいかに周波数に関係させずにマッチング取るかです




  B.リニア部分でのゲインのフラット化

    出力のマッチング特性と 入力側のマッチング特性の和で全体の特性が決まります

    調整時は Aで出力側を決め その後から 入力側の特性を決めるのが良いでしょう

    殆どのFETは入力インピーダンスの 純抵抗成分も低く変換率が大きく

    出力負荷容量と比較して2倍位が入力負荷容量の場合がほとんどです

    その分これを打ち消したり 周波数特性に影響を少なくするのは大変です



  シングルもプッシュプルも ゲイン特性をフラットにする決め手は フィードバックです 

  高い周波数でフィードバック効果を出さず ゲインを維持させ 周波数が低くなるほど

  ゲインを一定に成る様定数を決めます

  フィードバックには ある程度の配線長が必要ですが この配線長をLとして活用

  すれば 高い周波数でゲインを落とさず 低い周波数で帰還回路が有効に動作出来ます


H 最大電力?

  上で扱う電力は P1dB を言います

  飽和電力は Psat と呼びますが おおよそ P1dB + 2dB 程度となります

  取り出せる最大電力は デバイスごとにドレイン内部の純抵抗値に寄ります

  内部抵抗が4Ωなら FETのドレイン端子から出力側を見たインピーダンスも

  4Ωにした時が最大出力と成ります

  DC電圧 28Vとすると RF信号のクリップ電圧は 56Vppとなり 交流ピーク電圧は

  28V 実効値は 28÷1.414=20V

  信号源に対する負荷は 4Ω+4Ω=8Ω であり

  これに発生する電力は P = 20 X 20 ÷ 8 = 50 W

  FET内部に消費される電力と 負荷に出力される電力は抵抗値が等しいので

  半分ずつと成ります   Po= 25W

  プッシュプルですと 電力は2倍の50W  出力インピーダンスも2倍の8Ωと成ります

  これ以上は バイアスを上げて電流を増やしても 出力は上がりません

  電源電圧を上げて 信号源のRF電圧を上げる必要が有ります

  つまり 電源電圧が固定であれば デバイスごとに取り出せる最大電力は決まっている

  と言う事に成ります

I プッシュプルかパラ接続か

  いずれも大きな出力を得る為の方法ですが それぞれ特徴が有ります

  周波数や目的に合わせて 選択します


  【 各回路の特徴 】

  パラ接続     外部回路構成が簡単に成ります

             内部抵抗 r が半分に成りますので Zも半分に出来ますので

             2倍の電力が扱えます

             インピーダンスが1/2 並列容量が2倍に成りますので

             50Ωへのインピーダンス変換が大変と成ります


  プッシュプル   外部回路構成の部品が増えます 合成回路も必要です

             合成だけで2倍のインピーダンスに変換出来ますし

             各々のインピーダンスも元の値で扱えますので 50Ωへの変換率が

             パラ接続と比較し1/4で済みます

             ドレインの並列負荷容量が増えないのも広帯域には扱いが簡単です


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