精神科にできること[脳の医学 心の治療] 野村総一郎
講談社現代新書 2002年9月20日発行 660円
のむら そういちろう 1949年生まれ。慶應義塾大学医学部卒。現在防衛医科大学校精神科教授。
精神科は何か特殊な人だけが関わるものだと思っている人も多いだろう。だが、10人に1人は生涯に1度は鬱病にかかると言われているし、電車の中で突然激しい不安におそわれる症状(パニック障害)も珍しいものではない。現在の精神科・精神医学について一通りの知識が得られる本。
2003年6月18日
人間の心を探求する[私と心理学] 宮城音弥
岩波新書 1977年4月20日発行
みやぎ おとや 1908年生まれ。1931年京都大学文学部哲学科卒業
心理学者が自伝を語りながら心理学理論を紹介した本。著者が大学を卒業した時現在と同じように就職難の時代であったことなど興味深い。
2003年6月17日
女であることの希望[ラディカル・フェミニズムの向こう側] 吉澤夏子
勁草書房 1997年3月10日発行 2200円
上野千鶴子氏が「反動的な書物」と呼ぶ本。
ミス・コンテストを差別として告発することは美醜が恋愛の根拠になることも差別として認識することにつながると著者は言う。私自身は基本的にフェミニズムとは180度反対ではないにしてもかなり異なった見解を持っている。
2003年6月14日
なぜいま人類史か 渡辺京二
葦書房 1986年10月10日発行 1800円
「良い」「悪い」といった判断にはたして根拠はあるのか。形のある“物”と同じレベルで人間の精神活動に根拠はあると言えるのか。渡辺氏はその問いにYesと答える。これは「どんな考えにもそれを正当化できる裏付けはないのでどんな考えを持とうが勝手」と考えていた10代終りの私には新鮮だった。人間の精神活動は脳の働きであり物質的基盤を持っている。それは宇宙のはじまりからの発展と進化の結果であり、人間が頭で考えることは決して自然的基礎を持たないフワフワしたものではない。であればあらゆる思考、感情…は全肯定されるのかというとそうはならず、人間の生み出す精神活動を好みの問題ではなく確定する基準があると渡辺氏は言う。その「基準」が何であるのかの説明は私には未だにできないが。
2003年6月14日
母よ、生きるべし 松下竜一
河出書房新社 松下竜一 その仕事第8巻 2400円 初出1990年
私は『豆腐屋の四季』を読んだとき25歳であった松下氏が14歳の未来の妻洋子さんに恋心を抱いたことを不思議に思った。25歳が14歳に本気で惹かることなどあるのだろうかと。この本を読んで納得がいった。
これは洋子さんの母の闘病記である。洋子さんの母が末期の状態になったときうわごとのように「(家に)カエリタイ」と言う。しかし、松下氏は理性あるときの彼女ならそのような姿を近所の人に見られたくないと思うだろうと言いそれを拒否する。この判断は人によって意見が分かれるだろう。理性ある状態をその人の人格と考えるかということだ。
2003年6月12日
豆腐屋の四季 松下竜一
河出書房新社 松下竜一 その仕事第1巻 2400円 初出1969年4月8日
作家松下竜一氏のデビュー作。豆腐屋をしながら日々の生活を綴った作品。私は松下氏の作品では『狼煙を見よ』を最初に読んだが巻末の著者紹介に氏は20代の間、豆腐屋をしながら短歌を読んだとあり、気楽な毎日だったんだなーと思ったが違った。松下氏は肺が悪く病弱で豆腐屋の仕事も苦役だったのだ。この本は兄弟に苦労させられた話など決して明るいものではないがそこに生きることの重みが描かれている。
2003年6月12日
動物園にできること[「種の方舟」のゆくえ] 川端裕人
かわばた ひろと 1964年生まれ。東大教養学部卒。日本テレビを経て97年よりフリーランスに。
文藝春秋 発行1999年3月20日 1619円 480.7カ
私は動物園が好きでよく行く。しかし、動物が野生とは比較にならないほど狭い場所に閉じ込められていること、そもそもは野生の状態から捕獲されて連れて来られたという事実に葛藤を感じる。ただ私は動物園の存在そのものは肯定的に考えたい。この本には主にアメリカの動物園を紹介しながら筆者の抱え込んでいる葛藤が描かれている。
2003年6月11日
循環共存型社会の環境法 坂口洋一
さかぐち よういち 1942年生まれ。1970年より24年間にわたり東京外国語大学で民法を担当。1994年より上智大学法学部教授
青木書店 発行2002年1月20日 2600円 519.1サ
大量生産・消費社会から持続可能な循環型社会への移行のための生物多様性と法制度についてひととおり解説した、環境問題の全体像をとらえるための分かりやすい本。
2003年6月11日
ニッポン政治の解体学 滝村隆一
たきむら りゅういち 1944年生まれ。法政大学社会学部卒業。
時事通信社 発行1996年10月5日 2200円
国家や権力を一般的に理解するための格好の本。
2003年6月11日
北一輝[日本の国家社会主義] 滝村隆一
勁草書房 発行1973年5月10日 2500円
2.26事件で民間人の首魁として処刑された北一輝の政治理論的解明に挑んだ本。
2003年6月11日
北一輝 渡辺京二
わたなべ きょうじ 1930年生まれ。法政大学社会学部卒。
朝日新聞社 朝日選書278 1978年初出 1000円
滝村氏の『北一輝』が純粋な政治理論として北一輝を解明しているのに対し、渡辺氏は人類史上の道筋、人類の集合精神の析出という立場から北一輝を見ている。このため滝村氏が北一輝にかなり辛口の評価を下しているのに対し渡辺氏は滝村氏に比べると北に擁護的である。
2003年6月11日
もてない男[恋愛論を超えて] 小谷野敦
こやの あつし 1962年生まれ。東京大学文学部英文科卒業。同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。学術博士。
マスメディア、ポップス、現代小説は若者には恋人がいることが当然のように描く。が、しかし恋愛に縁のない人間は厳として存在する。この本で私が好きなのは次の部分である。「私にはこれ(注:鴻上尚二の作品のラストシーンの台詞)は『片思い』者の宣言に聞こえる。どうしようもない片思いの最終的な解決法は、生まれ変わりを信じることにしかない、というような」
2003年6月11日