選挙に行こう!棄権は自民党の思うツボ!


 『50回選挙をやっても自民党が負けない50の理由』(土屋彰久:1964年生まれ。早稲田大学政経学部政治学科卒。政治学者。中央大学ほかにて非常勤講師。自由国民社 2004年7月25日発行 1400円)を読んだ。

 「国家主義」という語は意味が曖昧なまま一人歩きしている感があるが、この本では、「与党の政治家・内閣・キャリア組官僚・上場企業の役員および大株主」の利益優先主義の意味で使っていると読み取れる。

 本の内容はタイトル通りで自民党がいかに巧妙に国民を支配してきたかについて書いてあるのだが、もっとも一般の人に知っていてほしいのは次の点である。

 小選挙区の場合、棄権することや白票や無効票を投じることは、得票数第1位の立候補者に1票投じたのと同じ効果を発生させるということだ。棄権や白票、無効票は当選者に1票入れるのと結果的には同じなのである。無効票とは読めないような字で書かれたものや有効票とみなされないほどの字の間違いなどを指すが、意図的に立候補していない人の名を書くこと、自分の名前や「徳川家康」などと書くこと、「自民党潰れろ!」などと書くことも含む。そうした反抗的なことを書いても当選者に1票入れることと同様の効果が議席の獲得に関して発生する。これは都道府県知事選や市町村長選でも同じである。石原慎太郎が嫌いだから投票に行かないと言い棄権することも石原慎太郎に1票入れるのと同じ効果を生むのである。

 では比例区の場合はどうか。仮に各党の得票割合が、自民4:民主3:公明1:共産1:社民1の場合、棄権、白票、無効票という行動は、この割合で各党に投票したのと同じことになる。

 棄権、白票.無効票が小選挙区や都道府県知事選、市町村長選の場合、得票数第1位の立候補者に1票入れるのと同じであることがわかってもらえたと思う。

 次になぜ人々が投票に行かないかについても土屋氏は書いている。子どもが親や教師の言う「優等生」的な指示に反発を覚えるのと同様、成人も「選挙に行きましょう〜」と訴えるマスコミ、選挙管理委員会、総務省などに「優等生」的な指示を感じ、反発的心理から投票に行かないのである。これを土屋氏は自民党の無投票への逆誘導と呼んでいる。

 都市部の中・低所得層が自民党の政治によってもっとも割を食っており、反自民党勢力であるはずなのだが、この層の投票率は低く、上記の通り、投票所に行き投票することに「優等生」的指示のイメージを持ち、投票に行かないことによって実は自民党に票を投じているのと同じ効果を生む行動をとっているのだと土屋氏は書く。

 だから中・低所得層こそ自民党政治に反発を感じるなら選挙に行き自民党以外に投票すべきなのである。


 この本で選挙の話が出てくるのはページの終わりの方であり、ページのほとんどは自民党の利権政治、政治家・官僚・財界人の癒着などについて書かれている。自民党は実質富裕層(年収1000万円以上、資産1億円以上)のための政党であること、ただそれでは票が獲得できないために富裕層以外の人々、特に農家に対してアメを蒔いていることなどである。それから、日本の宗教団体の99パーセントは政治行動上、保守的であり、警察は同じ保守同士の仲間であるという認識を持ち、一部の新興宗教はその犯罪まがいの手口を警察に大目に見てもらっているという記述に注目させられた。

 また、自民党が使うさまざまな大衆への心理操作について書かれてあるが、注目したのは、「黙殺効果」「目そらし効果」である。「黙殺効果」とは一部のメディアが報じた情報について他のメディアが追随しないという形で行われる。また、大手メディア一社が報道しても残りの他社が報道しない場合もある。「目そらし効果」とは、たとえばアザラシの「タマちゃん」や「白装束軍団」などを繰り返し報道することで国民にそちらの方に注目させ、その隙に国民に反発を買いそうな法案を成立させるたぐいのことである。

 驚いたのは次のことだ。昔は貧乏な家の子は大学に行けなかったので、富裕層の子が一流大学に行ったため階級が学歴に投影されていた。ところが貧乏な家庭の子どもも頑張って何とか一流大学に行けるようになってくると富裕層出身者が圧迫されるようになってきた。一流企業の富裕層出身者の採用枠が確保されなくなってきた。「そうなったら、タテマエより本音を優先するのが当然で、一流大学を出ても、コネがなければ、そうそう一流企業には就職できないような状況に実態は変化していったのである」。土屋氏は、この本について「どの論点についても、基本的には同じように入念な観察と分析から導いて」いて、「一見、いいかげんそうに見える話でも、テキトーにでっち上げて、いいかげんに書き飛ばしているわけではない」と書いているが、コネがなければ一流大学を出ても一流企業には就職しにくいというのは即座には信じがたい話である。

 さらに、「同じ受験戦争に平等な条件で参加しているように見えても、雲の上(注:富裕階層)の出身者は、一流私大への裏口入学、一流企業へのコネ採用など、様々な面で優遇されている」(142ページ)とある。一流私大への裏口入学とはにわかには信じられないことである。一流私大とは、慶應、早稲田、上智、ICU、東京理科大、中央大法学部だと思うが、これらの私大が裏口入学を行っているとは明白な事実を示されない限り信じがたい。

 土屋氏やほかの誰かの手で実証的データを用いて証明して欲しい。


2005年12月9日


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