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「月の大きさと月までの距離」


堀部克之(TOSS中高横浜)

月の大きさと地球から月までの距離を求める授業。中学3年で学ぶ「相似」を利用して、月の大きさと地球から月までの距離を求める。2006年12月16日(土)、第3回高校授業ライセンスでのC表ライセンス模擬授業。



1.指導案
コンテンツ

発問1 満月から、わかることは次のうち何ですか。

挙手で確認「月までの距離だという人?」「月の大きさ」「地球の形」
「紀元前のギリシャ人は次のことを知っていました。全員正解です」

説明1 月食から、月の大きさを求めます。月食が始まってから、50分後、月が、完全に地球の影に隠れます。

「100分」「150分」

発問2 200分後。再び月が輝き始めます。地球の直径は12800qでした。月の直径を求めます。式をノートに書きなさい。

(中に入って確認)「式は何ですか」指名「12800÷4です」
「計算します」「書けた人は、答えを言います。いくつですか」
「3200です」「その通り。月の直径は3200qです」
「五円玉を出します」

指示1 穴から月をのぞいて見てごらん。五円玉の穴と月がちょうど重なるように見ます。

「あと5秒・3,2,1。五円玉を机におきます」

説明3 本物の月で同じことをしました。先生の目から五円玉までの距離は60pでした。

発問3 五円玉の穴の直径は何pですか。定規ではかってごらん。

(中に入る)指名「5mmです」「0.5pです」「0.5p、1/2pとします」

発問4 1/2を何倍すると60になりますか。

「四角を求める数字を書きます。」(戻りながら確認)
「いくつですか」指名「120です」

発問5 月の直径は何qでしたか。

「3200qです」

発問6 月までの距離を求めます。できた人は、見せにきます。

「先着3名までとします」3200×120=384000とできていたら丸。

説明4 古代のギリシャ人はこのようにして、月までの距離を求めたのです。次回は、太陽について勉強しましょう。

「授業を終わります」

2.授業の意図
 中学の数学で学ぶ「錯角」「相似」、高校で学ぶ「三角比」を使って、
 地球・月・太陽の大きさや距離を求める。
 中学2年の図形で、「錯角」を学ぶ。錯角と円周を求める公式だけで、地球の大きさ、つまり、地球の周や直径を求めることができる。
 中学3年の図形で、「相似」を学ぶ。地球の直径がわかれば、相似を利用して、月の大きさと地球から月までの距離を求めることができる。
 高校1年の数学Tで「三角比」を学ぶ。三角比を利用して、地球から太陽までの距離がわかり、相似を利用すれば太陽の直径がわかる。
(1次 地球の大きさ)
6月21日(夏至の日)の正午、シエネ(アスワン)の井戸の底に太陽がうつる。シエネは北回帰線上に位置している。同じ時刻、シエネから北のアレキサンドリアでは、地面に棒の影ができていた。棒と太陽の光の角度は、円1周の50分の1(7.2°)であった。シエネとアスワンは、当時の単位で5千スタディオン離れている。したがって、地球の一周は、5千スタディオンを50倍した25万スタディオンであることがわかった。
古代ギリシャのオリュンピア競技祭で用いられた1スタディオンは185mで、地球の周長は46250qとなる。これは、実際の値4万kmを15%上回る数字だ。エジプトの1スタディオンは157mで、この場合、地球の周長は、39250qとなり、誤差は2%でしかない。授業では、1スタディオンを157mとした。39250qを円周率3.14で割ることで、地球の直径が12500qと求められる。
エラトステネス(Eratosthenes、紀元前275‐194年)は、このような計算で、地球の1周、地球の直径を求めた。エラトステネスは、地球の大きさを初めて測定した人物となった。地球の1周の数値を手に入れたことによって、月の大きさ、地球から月までの距離を求められるようになった。そして、アナクサゴラスとアリスタルコスによって、地球と太陽の距離、太陽の大きさが計算で求められるようになった。
エラトステネスは、アレキサンドリアの研究機関ムセイオン(museion:museumの語源)の館長を務めていた。エラトステネスは、「第2のプラトン」とも呼ばれていたことにより、「β(ベータ)」というあだ名があった。何をやっても第一人者にはなれず、つねに2番手であることへの皮肉であったという説もある。
中学2年で、「平行線の錯角は等しい」ことを学ぶ。これは、ユークリッド(Euclid、紀元前300年ごろ)の『原論』(Elements)の公準5から導かれる命題29である。中学3年で、エラトステネスのふるいを習う。中2、中3で地球の大きさを求める授業を実施する。
 シエネとアスワンの距離5千スタディオンは、歩いて測られた。毎年、ナイル川が氾濫した後、地図を作り直すためにエジプト政府が派遣した調査員が歩測していた。日本最初の地図である伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』(1821年)にも歩測は用いられている。
 エラトステネスが実際に使った棒の影は、日時計の棒(グノモン:gnomon)であると考えられている。
 円の1周が360°である「度数法」ができたのは、エラトステネスの時代より1世紀ほど後のことである。バビロニアの60進法より円の1周を360°とすることは、紀元前2世紀頃から使われるようになった。
エラトステネス以前、アリストテレス(Aristoteles、紀元前384‐322)は、地球の1周を7万km、アルキメデス(Archimedes,紀元前287‐212年)は4万8千kmと文献に残しているが、測定方法が書かれていない。
 地球の1周が4万kmとなるのは、1971年、フランスの国民議会で、「地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分の1」と1メートルと正式に採用したからである。
その後、「メートル原器」によって、1メートルを定めた。メートル原器は、それ自体の長さではなく原器の両端付近に記されたそれぞれの目盛の距離が摂氏零度の時に1メートルとなるよう設定されている。
1983年の第17回国際度量衡総会において、光速度を基準とする現在の定義「1メートルとは、1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである」が採用された。  
今では、カーナビゲーションシステムや携帯電話についているGPS(Global Positioning System)を利用して、2点間の緯度と距離が分かれば、地球の1周が簡単に求められる。
(2次 月の大きさと距離)
月食で黒く見える部分は、地球の影である。ピタゴラスやアリストテレスは、影の形から、地球は球であると考えていた。
月食の始まりから、月が完全に隠れる時間は、50分である。このとき、月が移動した距離は月の直径と等しい。200分後、再び月が見え始める。つまり、200分で、地球の直径だけ月が移動したことを示す。この2つの事実から、アリスタルコス(Aristarchus , 紀元前310年 - 紀元前230年頃)は、月の直径は地球の直径のおよそ4分の1であることを知っていた。しかし、アリスタルコスの時代に地球の大きさはわかっていなかった。
また、月食の写真が1枚あれば、月と地球の直径の比がわかる。地球の影の3点を通る円を垂直二等分線で作図し、写真の月と作図した地球の比を求めればよい。
満月のとき、月と五円玉の穴がちょうど重なるようにする。このとき、目から五円玉の距離は60p、五円玉の穴は0.5p(正確には0.52p)であった。五円玉の距離は、五円玉の直径の120倍である。「相似」の関係より、月までの距離は月の直径の120倍である。
ピタゴラスやアリストテレスが地球の球であること(地球球体論)を証明し、アリスタルコスが月の大きさは地球の4分の1であることを求め、それらのことから、地球の大きさを求めたエラトステネスが月の大きさや月までの距離を手に入れた。
今では、レーザー光を利用して、月までの距離を求める。「アポロ計画」によって、月には反射板が置いてある。月に向かったレーザー光が反射して返ってくるまでの時間は、約2.56秒である。したがって、光がつきに届くまでに1.28秒かかることになる。光の速さはおよそ30万キロメートル(正確には299,792,458 m/s)なので、月までの距離は300000(速さ)×1.28(時間)=384000キロメートルで求められる。
また、ヒッパルコス(Hipparchus,紀元前190年ごろ - 紀元前120年ごろ)は、三角比を利用して、月までの距離を求めた。月が真上に見える地点と月が水平線に見える地点の2点が、地球の中心と作る角が89°であった。すると、地球の半径と月までの距離は59倍であることがわかる。このことから、月までの距離を求めた。
(3次 太陽の距離と大きさ)
同じようにして、アリスタルコスは、地球と太陽までの距離を、三角比を利用して求めた。月が半月のとき、月・地球・太陽がなす角は87°(実際は89.85°)とはかり、太陽までの距離を月までの距離の20倍(実際は400倍)として計算した。
太陽までの距離がわかると、日食を利用して、太陽の直径がわかる。月までの距離を求めた場合で、五円玉が月に、月が太陽になったと考えればよい。つまり、月の直径を400倍すれば、太陽の直径が求まる。

実際の数値を、以下に示す。
地球の周長        40,100q
地球の直径        12,750q
月の直径          3,480q
地球と月の距離     384,000q
太陽の直径      1,390,000q
地球と太陽の距離  150,000,000q

<参考文献>
『ビックバン宇宙論(上)』、サイモン・シン著、新潮社
『ビックバン宇宙論(下)』、サイモン・シン著、新潮社
『世界でもっとも美しい10の科学実験』、ロバート・P・クリース著、日経BP社
『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30―話材+授業展開例+ワークで創る』、上垣 渉著、明治図書
『モノグラフ数学史』、矢野健太郎著、科学新興新社
『宇宙を測る―宇宙の果てに挑んだ天才たち』、キティー・ファーガソン著、講談社
『なぞとき感覚で挑戦!数学でわかる宇宙と自然の不思議』、ニュートンプレス
『頭が良くなる図解「数学」はこんなところで役に立つ』、白鳥春彦著、青春出版社
『宇宙を測る』、小尾信彌著、朝日新聞社
『はかってわかる!おどろき大百科2 地球・宇宙をはかる』瀧上豊監修、文研出版
『新しい高校地学の教科書』杵島正洋、松本直紀、左巻健男編著、講談社


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