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模擬授業210.「太陽までの距離と大きさ」


堀部克之(JHH横浜)

2016年1月23日(土)、87の会授業検定セミナー。授業技量検定C表。


1.主張したいこと

地球、月、太陽の大きさや地球からの距離を求めることで、宇宙の秩序や原理を知ることのすばらしさを授業する。

 中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 中学校部会(第4期第1回)議事録・配布資料の資料13では、「本来理数は、宇宙の秩序の原理を知ることが人間にとってすばらしいことだという信念から生まれた学問」とある。
また、アンリ・ポアンカレは次のように述べた。「科学者が自然を研究するのは、そのなかに喜びを感じるからであり、そこに喜びを感じるのはそれが美しいからである。(中略)科学にかかわる美は、各部分が調和した秩序からもたらされ、純粋な知性によって把握されるような、より深い美なのである。」
また、高等学校学習指導要領には、「直角三角形における三角比の意味、それを鈍角まで拡張する意義及び図形の計量の基本的な性質に理解し、角の大きさなどを用いた計量の考えの有用性を認識するとともに、それらを具体的な事象の考察に活用できるようにする。」とある。
今回は、「三角比」を利用する具体的な事象の例として、太陽までの距離と大きさを実際に計算して求め、宇宙の秩序や原理を知ることのすばらしさを授業する。
半月のとき、地球と月と太陽の位置関係は直角三角形になる。そのことから、太陽までの距離を求めることができる。太陽の大きさを求めるには、日食を利用する。日食のときに、月がぴったり太陽と重なるからである。

2.教材研究
中学の数学で学ぶ「錯角」「相似」、高校で学ぶ「三角比」を使って、地球・月・太陽の大きさや距離を求める。中学2年の図形で、「錯角」を学ぶ。錯角と円周を求める公式だけで、地球の大きさ、つまり、地球の周や直径を求めることができる。中学3年の図形で、「相似」を学ぶ。地球の直径がわかれば、相似を利用して、月の大きさと地球から月までの距離を求めることができる。高校1年の数学Tで「三角比」を学ぶ。三角比を利用して、地球から太陽までの距離がわかり、「相似」を利用すれば太陽の直径がわかる。
(1次 地球の大きさ)
6月21日(夏至の日)の正午、シエネ(アスワン)の井戸の底に太陽がうつる。シエネは北回帰線上に位置している。同じ時刻、シエネから北のアレキサンドリアでは、地面に棒の影ができていた。棒と太陽の光の角度は、円1周の50分の1(7.2°)であった。シエネとアスワンは、当時の単位で5千スタディオン離れている。したがって、地球の一周は、5千スタディオンを50倍した25万スタディオンであることがわかった。
古代ギリシャのオリュンピア競技祭で用いられた1スタディオンは185mで、地球の周長は46250qとなる。これは、実際の値4万kmを15%上回る数字だ。エジプトの1スタディオンは157mで、この場合、地球の周長は、39250qとなり、誤差は2%でしかない。授業では、1スタディオンを157mとした。39250qを円周率3.14で割ることで、地球の直径が12500qと求められる。
エラトステネス(Eratosthenes、紀元前275‐194年)は、このような計算で、地球の1周、地球の直径を求めた。エラトステネスは、地球の大きさを初めて測定した人物となった。地球の1周の数値を手に入れたことによって、月の大きさ、地球から月までの距離を求められるようになった。そして、アナクサゴラスとアリスタルコスによって、地球と太陽の距離、太陽の大きさが計算で求められるようになった。
 シエネとアスワンの距離5千スタディオンは、歩いて測られた。毎年、ナイル川が氾濫した後、地図を作り直すためにエジプト政府が派遣した調査員が歩測していた。
 円の1周が360°である「度数法」ができたのは、エラトステネスの時代より1世紀ほど後のことである。バビロニアの60進法より円の1周を360°とすることは、紀元前2世紀頃から使われるようになった。
(2次 月の大きさと距離)
月食の始まりから、月が完全に隠れる時間は、50分である。このとき、月が移動した距離は月の直径と等しい。200分後、再び月が見え始める。つまり、200分で、地球の直径だけ月が移動したことを示す。この2つの事実から、アリスタルコス(Aristarchus , 紀元前310年 - 紀元前230年頃)は、月の直径は地球の直径のおよそ4分の1であることを知っていた。しかし、アリスタルコスの時代に地球の大きさはわかっていなかった。
満月のとき、月と五円玉の穴がちょうど重なるようにする。このとき、目から五円玉の距離は60p、五円玉の穴は0.5p(正確には0.52p)であった。五円玉の距離は、五円玉の直径の120倍である。「相似」の関係より、月までの距離は月の直径の120倍である。
ピタゴラスやアリストテレスが地球の球であること(地球球体論)を証明し、アリスタルコスが月の大きさは地球の4分の1であることを求め、それらのことから地球の大きさを求めたエラトステネスが月の大きさや月までの距離を手に入れた。
また、ヒッパルコス(Hipparchus,紀元前190年ごろ - 紀元前120年ごろ)は、三角比を利用して、月までの距離を求めた。月が真上に見える地点と月が水平線に見える地点の2点が、地球の中心と作る角が89°であった。すると、地球の半径と月までの距離は59倍であることがわかる。このことから、月までの距離を求めた。
(3次 太陽の距離と大きさ)
同じようにして、アリスタルコスは、地球と太陽までの距離を、三角比を利用して求めた。月が半月のとき、月・地球・太陽がなす角は87°(実際は89.85°)とはかり、太陽までの距離を月までの距離の20倍(実際は400倍)として計算した。
太陽までの距離がわかると、日食を利用して、太陽の直径がわかる。月までの距離を求めた場合で、五円玉が月に、月が太陽になったと考えればよい。つまり、月の直径を400倍すれば、太陽の直径が求まる。
3.単元構成(全7時間)
1次 地球の大きさ(2時間)
(1)錯角…中二「平行線の角の性質」
(2)地球の周・直径…錯角の利用・・エラトステネス(小森・大堀どーんとたっぷり講座)
2次 月の大きさと月までの距離(3時間)
(1)相似…中三「相似」
(2)月食と月の直径…中一「垂直二等分線」
(3)月までの距離…中三「相似の利用」・アリストテレス(第11回江戸前フレッシュ講座)
3次 太陽までの距離と大きさ(2時間)
(1)三角比…高一「三角比」
(2)太陽までの距離と大きさ…高一「三角比の利用」中三「相似」アリスタルコス(本時)
4次  自然や宇宙について研究課題を追求する

4.授業の流れ

発問1 半分の月、半月です。このとき、太陽は、どこにありますか。

A,B,C,Dの4択。挙手で確認。

発問2 地球、月、太陽を結ぶと三角形になります。何三角形ですか。

指名「直角三角形です」

説明1 この直角三角形の縮図から、地球からの月までの距離と、太陽までの距離の比は1:400です。

発問3 j実際の月までの距離は、38万qです。太陽までの距離を求めます。式をノートに書きまなさい。

後ろまで歩く。「38
何ですか」「38万×400です」「答のはじめの3つの数字を言ってください」「152です」

説明2 1億5千200万キロメートルです。これを「1天文単位」と言います。

「みんなで、1天文単位」

指示1 次に、太陽の大きさを求めます。○○にはいる自然現象は何ですか。予想して、ノートに書きます。

「前回は、月食や満月から月の大きさや距離を求めました。」列指名。

発問4 日食です。

説明3 日食のとき、月の直径と地球を結んだ三角形と太陽の直径と地球を結んだ三角形は相似になります。

「相似。みんなで言ってごらん」

発問5 相似は、形が同じで大きさが違う図形です。月までの距離と太陽までの距離の比は、1:400でした。したがって、月の直径と太陽の直径の比は、1:いくつですか。

「400です」

発問6 月の直径は、3500qです。太陽の直径を求めます。できた人は見せにきます。

3500×400=1400000q

説明4 半月・日食から太陽の大きさと距離を求めました。宇宙の法則を知るために、高1では「三角比」を勉強していきましょう。


5.先行実践
善能寺正美氏
「太陽が2m、月が5mm。どれくらい離れたら同じ大きさに見えるか。」TOSSランド1133044

6.受験歴
2014年6月29日(日) 東京検定 C表 「習熟度別授業」 前13級→13級
2009年3月15日(日) 第一回千葉飛翔セミナー C表 「音律」 16級→13級
2008年12月14日(日) TOSS高校全国セミナー2008 C表 「形式論理学」 16級→16級

7.参考文献
サイモン・シン『ビックバン宇宙論(上)(下)』新潮社/ロバート・P・クリース『世界でもっとも美しい10の科学実験』日経BP社/上垣 渉『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30―話材+授業展開例+ワークで創る』明治図書/矢野健太郎『モノグラフ数学史』科学新興新社/キティー・ファーガソン『宇宙を測る―宇宙の果てに挑んだ天才たち』講談社/『なぞとき感覚で挑戦!数学でわかる宇宙と自然の不思議』ニュートンプレス/白鳥春彦『頭が良くなる図解「数学」はこんなところで役に立つ』青春出版社/小尾信彌『宇宙を測る』朝日新聞社/瀧上豊『はかってわかる!おどろき大百科2 地球・宇宙をはかる』文研出版/杵島正洋,松本直紀,左巻健男『新しい高校地学の教科書』講談社/山ア耕造『太陽の本』日刊工業新聞社/小池田洋子『太陽をしらべる』岩崎書店
フラッシュカード


講評

小貫先生
1.安定した授業
2.サイトがきれい
3.無駄のないサイト、言葉
4.手練れの授業
5.もっと詳しく指導案を書いていい。
桜木先生
1.自然と数学の美しさ
2.半月のときなぜそうなるのか、わからない人にはどうしてなのかがあるが、画面でさっと進めた

C表検定 63点 14級

1 授業の始まり(1分程度) 20点 → 12.5点
2 子どもへの目線 10点 → 6.5点
3 声の明るさ、さわやかさ 10点 → 7.5点
4 子どもへの対応、応答 10点 → 8点
5 指示発問の明確さ 10点 → 7.5点
6 授業の流れ、リズム 20点 → 12点
7 単元としての授業の組み立ての明確さ 20点 → 9点

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