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形式論理学


堀部克之(TOSS中高横浜)

アリストテレスの形式論理学の授業。PISAが定義する読解力(情報を、解釈し、評価して、熟考し、評価する思考)を、『数学A』の「論証」で学ぶ。2008年12月14日(日)。高校セミナーでの模擬授業。C表ライセンス。



1.主張したいこと

PISAが定義する読解力(情報を、解釈し、評価して、熟考し、評価する思考)を、『数学A』の「論証」で学ぶ。

2006年にOECD(経済協力開発機構)「生徒の学習到達度調査」(PISA)が実施された。『PISA2006年調査 評価の枠組み』(ぎょうせい)によれば、「社会に積極的に参加することができるような実用的な知識・技能」を測るものである。
PISAは、読解力を次のように定義している。読解力とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」である。
 PISAが測定しているのは、必要な情報を探してきて、それを解釈し、評価して、表現する一連の思考や行為を実行する能力である。
 PISAの結果を受け、新しい中学校学習指導要領が平成20年3月に告示された。数学の目標は、「数学的活動を通して、数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察し表現する能力を高めるとともに,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感し,それらを活用して考えたり判断したりしようとする態度を育てる。」とある。
 新指導学習指導要領では、「数学的活動を通して」「表現する能力」「考えたり判断したり」という言葉が新たに加わっている。これは、PISAが測定している「解釈し、評価して、表現する一連の思考」に対応していると考えられる。
 また、PISAでの数学リテラシーの定義では、「数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や家族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠にもとづき判断を行い、数学に携わる能力」とある。
すなわち、生活していく上で数学的根拠にもとづき判断する能力つまり論理力が必要である。
高校1年の数学Aでは、「論証」を学ぶ。論証は、アリストテレスの形式論理学から出発している。今回は、形式論理学そして背理法を授業する。
 「解釈し、評価して、表現する一連の思考」を『数学A』の論証では、命題は真偽を評価・判断し、そして、対偶や背理法により熟考し、証明という形で表現することを学ぶ。

2.教材研究
 ギリシャのアリストテレスは、プラトンの弟子である。「すべての人は死ぬ。ソクラテスは人である。だからソクラテスは死ぬ。」というような三段論法や推論などの論理学を体系化した。アリストテレスの論理学を「形式論理学」という。「形式論理学」は、同一律、矛盾律、排中律から成る。同一律は、「AはAである」ということである。
矛盾律は、「AはBである」「AはBでない」これら2つの命題が同時に成立することはできない、またこれら2つの命題が同時に成立しないこともできないということである。排中律は、矛盾の中間はないということである。この同一律、矛盾律、排中律からなる形式論理学が、背理法という絶大な威力を持つ研究法を生み出した。
背理法とは、何かを前提とすると、結果として不合理が起こる。したがって、その前提は誤っている、というふうに結論づけていく手法である。
背理法は数学だけでなく、哲学、討論術としても有力な方法として用いられるようになった。背理法によって、ルート2が無理数であることを証明した。また、ロバチェフスキーは、非ユークリッド幾何学を創始した。さらに、トマス・アクィナスは『神学大全』において、背理法を用いて神の存在を証明した。 

 EU成立により、ヨーロッパで、国際化が進んだ。他の国の人と接する機会が増え、考え方や意見が違う人との接触が増えた。違う考え方や意見を、読み取り、解釈し、評価し、熟考する必要になった。そのために、必要な学力は読解力、数学的な論理力、科学的な知識であるとOECDは認識し、PISA型読解力の試験となったと考えられる。


3.単元構成

数学A 「論証」 PISA型読解力 新学習指導要領
第一時 命題と条件 評価 判断
第二時 仮定と結論 解釈 判断
第三時 必要十分条件 解釈 判断
第四時 否定 熟考 考え
第五時 逆・裏・対偶 熟考 考え
第六時 背理法(本時) 熟考・表現 考え・表現
第七時 センター試験演習 表現・判断 表現


4.授業の流れ
コンテンツ

指示1 A この矛はどんな楯をも貫く。「矛盾」のお話しです。みんなで、矛盾。

発問1 B この楯はどんな矛でも貫けない。念のため、何のお話ですか。

「矛盾です」

説明1 AとBの両方とも正しいときは、ないのです。

発問2 Aが正しくて、Bが正しくないときはありますか、ないですか。どちらかをノートに書きます。

「どちらですか」「あります」

説明2 同じように、Bが正しくて、Aが正しくないときも、あります。

発問4 AとBの両方が正しくないときは、あるのですか、ないのですか。

挙手で確認。

説明3 Aが正しくないとは、この矛はある盾を貫かないということです。
Bが正しくないとは、この盾はある矛で貫けるということです。
この矛やこの盾は、同時に存在できるので、AとBの両方が正しくないときはあるのです。「韓非子の矛盾」といいます。


A ○ ○ × ×
B ○ × ○ ×
ない ある ある ある

説明4 A 父は、犬であるだ。B 父は、犬ではない。AとBの両方が正しいときは、ないのです。

発問5 Aが正しくて、Bが正しくないときはありのですか、ないのですか。どちらかをノートに書きます。

指名「あります」

説明5 Bが正しくて、Aが正しくないときもあります。

発問6 AとBの両方が正しくないときは、ありますか、ないですか。

挙手で確認。


A ○ ○ × ×
B ○ × ○ ×
ない ある ある ない

説明6 ないのです。「アリストテレスの矛盾」といいます。

説明7 韓非子の矛盾とアリストテレスの矛盾。韓非子の矛盾では、「Aが正しくない」ならば「Bは正しい」と言えないのです。

発問7 同じように、「Bが正しくない」ならば「Aは正しい」と言えないのです。。

説明8 アリストテレスの矛盾では、「Aが正しくない」ならば「Bは正しい」と言える。

説明9 これを「背理法」といいます。

「背理法」

発問8 「Bが正しくない」ならば「Aは正しい」と言え・・・

「言える」

発問 これを何法と言いますか。

「背理法です」

説明10 アリストテレスの矛盾では背理法が成り立つのです。

説明11 私たちの周りにはさまざまな情報があります。例えば、文章や図・表そして会話です。それらの情報を正しいか正しくないか判断し、ときには否定することによって、よりよい考えや意見を持つことができるのです。そのような論理を数学Aの「論証」で学んでいきましょう。


5.参考文献
1. 『PISA2006年調査 評価の枠組み』国立教育政策研究所監訳、ぎょうせい
2. 『生きるための知識と技能3』国立教育政策研究所編、ぎょうせい
3. 『PISA2003(数学リテラシー)及びTIMSS2003(算数・数学)結果の分析と指導改善の方向』文部科学省、東洋館出版社
4. 『PISA型学力の教材開発&授業』中原忠男編、明治図書
5. 『全国学力テストとイギリス』福田誠治、アドバンテージ・サーバー
6. 『全国学力テストとPISA』福田誠治、アドバンテージ・サーバー
7. 『競争しなくても世界一 フィンランドの教育』福田誠治、アドバンテージ・サーバー
8. 『全国学力テストとPISA2006』福田誠治、アドバンテージ・サーバー
9. 『数学嫌いな人のための数学』小室直樹、東洋経済新報社
10. 『アリストテレス入門』山口義久、ちくま新書
11. 『形式論理学入門』仲本章夫、創風社
12. 『算数・数学 授業改善から教育改革へ』國本影亀・山本信也訳、東洋館出版社
13. 『細野真宏の数学嫌いでも「数学的思考力」が飛躍的に身につく本!』細野真宏、小学館
14. 『向山洋一年齢別実践記録集 第16巻』向山洋一、東京教育技術研究所
15. 『発想法 創造性開発のために』川喜多二郎、中公新書
16. 『ザ・マインドマップ 脳の力を強化する思考技術』トニー・ブザン、バリーブザン、ダイヤモンド社
17. 『中学校学習指導要領』文部科学省、教育出版
18. 『中学校学習指導要領解説 数学編』文部科学省、教育出版

検討

佐藤泰弘氏
1.内容が難しく、むずかしいところから授業に入っている。第一発問を工夫する。
2.子どもの目線で。
石黒修氏
1.頭で解決できない。
2.頭の中を整理できるように、順序や画像を工夫し、思考に結びつける。
3.生活の体験から、理論へ。
井上好文氏
1.単元構成弱い。
2.形式論理学だけでは弱い。




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