11月19日
◆1862年のこの日、黒岩涙香 (本名・周六) が高知県安芸郡川北村で生まれる (旧暦9月28日。なお、11月20日=旧暦9月29日とする資料もあり)。《都新聞》 などいくつもの新聞の主筆をつとめたあと 《万朝報》 を創刊、社会悪を追及した親しみやすい記事によって、たちまち同紙を東京最大の発行部数に押し上げた天才ジャーナリストであり、ユゴー 『噫無情』 やボアゴベ 『鉄仮面』、デュマ 『巌窟王』 をはじめとする翻案小説で読者を熱狂させた偉大な作家でもあった。探偵小説の翻案に、ガボリオ 『人耶鬼耶 (ルルージュ事件)』 『大盗賊 (書類百十三)』 『有罪無罪 (首の綱)』 『他人の銭』、ボアゴベ 『執念 (囚人大佐)』 『死美人 (晩年のルコック)』 『片手美人』 『劇場の犯罪』 『塔上の犯罪』、A・K・グリーン 『真ッ暗 (リーヴェンワース事件)』、マリー・コレリ 『白髪鬼 (ヴェンデッタ)』、C・N・ウィリアムスン 『幽霊塔 (灰色の女)』 など。SFの分野でも破滅テーマのニューコム 『暗黒星』、グリフィス 『破天荒』、H・G・ウェルズ 『文明奇談 八十万年後の社会 (タイム・マシン)』 などの紹介がある。エドモンド・ドウニイ 『怪の物』 (『ゴシック名訳集成西洋伝奇物語』 学研M文庫、所収) は乱歩・正史作品にも影響をあたえた怪奇ミステリ。創作でも、被害者の手に残された髪の毛から犯人を推理する 「無惨」 (1989) で、先駆的な仕事を残している。涙香本を耽読した江戸川乱歩は 『白髪鬼』 『幽霊塔』 をリライトしているが、やはり涙香ファンの横溝正史と組んでA・K・グリーン作品の翻案に挑戦した 『覆面の佳人』 の 「補訳者の言葉」 では、「私達が、今此処に試みようとしてゐるのはつまりその涙香式なのである」 と宣言している (もっともこの仕事は実際には横溝単独のものらしい)。