| 1月29日 ◆1860年のこの日、アントン・チェーホフが南ロシアの港町タガンローグに生まれる。『世界短編傑作集1』 (創元推理文庫)収録の短篇 「安全マッチ」 で、このロシアの文豪に初めて出会ったミステリ・ファンは意外に多いのでは。怪奇小説ファンなら 「黒衣の僧」 (『怪奇小説傑作集5』 所収) か。これは 『桜の園』 の作家というイメージを吹っ飛ばす不条理な恐怖に満ちた作品。唯一の長篇 『狩場の悲劇』 (1884-85) も探偵小説仕立ての作品として有名で、江戸川乱歩のエッセーに 「『狩場の悲劇』 の探偵小説的構成」 がある。19世紀末のロシアでも探偵小説が大流行していたらしい。 ◆1910年のこの日、R・L・スティーヴンスン『ジーキル博士とハイド氏』の舞台版が、名優ヘンリー・アーヴィングを主役に迎えてロンドンで初日を迎える。ちなみにアーヴィングの秘書を務めていたのが、『ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカー。そして有名な美人だったストーカー夫人フローレンスの少女時代に、彼女に夢中になったのが 〈分身〉 テーマのもうひとつの傑作『ドリアン・グレイの肖像』の作者オスカー・ワイルドという、見事な連鎖ができあがる。D・J・スカル『ハリウッド・ゴシック』 によると、フローレンスは美しいが打算的で冷たい女だったという (同書には2枚の肖像画が掲載されているが、たしかに美人)。夫の死後、ムルナウの映画《吸血鬼ノスフェラトゥ》の著作権侵害をめぐって、彼女がとった強硬な態度(もちろん、正当な権利ではある)はよく知られている。 ◆2000年のこの日、乾信一郎が死去。昭和初期から〈新青年〉に翻訳やコラムを発表、やがて博文館に入社、1937年からは同誌編集長をつとめた。戦後も作家・翻訳家として活躍、ユーモア物を得意とした。回想記『「新青年」の頃』(早川書房)がある。天瀬裕康『悲しくてもユーモアを―文芸人・乾信一郎の自伝的な評伝』(論創社)も。 ◆2003年のこの日、アメリカの文芸評論家レスリー・A・フィードラーがニューヨーク州で死去。享年85。C・B・ブラウンから、ポー、ホーソーン、メルヴィルなどアメリカ・ルネサンスの作家たち、フォークナーらの20世紀文学まで、アメリカ文学のゴシック性を掘り起こした大著『アメリカ小説における愛と死』(新潮社)、小人、巨人、シャム双生児、髭女、ピンヘッドなどの実在の奇形をとりあげながらフリークスの聖性を論じた『フリークス』(青土社)は、ミステリ・怪奇幻想文学読者にもお奨めしたい本。 |