多摩川で恋をして。


第1話「コンビニ」


※これから話す事は全て架空の話である。

俺の名前はケンタ
一浪したがこの春から大学に通う事になった。
高校3年の時に全く勉強しなかったので、たった1年間勉強しただけで受かるとは。
大学入試なんぞカンタンだな。

家から自転車で行ける距離の大学に入り、すぐに友達もできて、
男ばかり5、6人のグループでつるむようになった。
その中には高校3年の時に同じクラスだったマサノブも偶然いて、お互いに驚いた。
当時はそれほどよく話したりとかはしなかったけど、これからはよろしくな。

大学に入り、履修科目を選んだり、いろんなサークルをのぞいてみたりして
キャンパスライフを楽しんでいる。
あとはやっぱり彼女がいれば最高だ!

大学に入ってマサノブはすでにバイトを始めたみたいだ。
今のシーズン、募集が多いからバイトを始めるのもイイかも知れない。
だがしかし、一つ問題がある。
俺はすでにバイトをしているのだ。

地元の友達のマサカズが働いていた酒屋を何かの縁で手伝っている。
浪人時代から働いてて、夕方からのレジ打ちと品出しがおもな仕事だ。
大学に入ってからは、平日は学校帰りに夕方から、土日は昼からバイト。
毎日バイトしているので、常連客や配達先のお宅や近所のお店の人たちとも仲良くなり、
仕事も少しずつ覚えて、楽しいバイトで文句を付けるところが一つを除いて全く無い。

「一つを除いて」とはモチロン、女の子との出会いが無い事である。
その可能性はゼロに等しく、大学にいる極少数の女の子と仲良くなれる方がまだ可能性はある。
とにかく最近は彼女が欲しいと強く思い始め、何か行動しなければと考えた。

大学に入ってから初めてのGW。
バイトをしている酒屋には内緒で、こっそり面接をしてコンビニのバイトが決まった。
昼間は大学に行き、夕方は酒屋でバイトなので、コンビニは夜勤を選んだ。
身体に無茶なのは分かってるが、己の欲望が勝り、
 「あとは何とかなるだろう!」
奥義「若気の至り」が発動した19歳の春であった。

(第1話 完)


第2話「夜勤」


コンビニ初出勤となったGWのとある日。
今までコンビニで働いた事の無い未経験者である俺は、不安いっぱいだ。
まず夜中は眠くならないだろうか。
女の子と出会えるだろうか。
 「それは重要だ!」
そんな事を考えながらお店に入り、店長に挨拶をした。
 「今日からよろしくお願いします」
まだ若い店長に今日から夜勤の仕事を教わる事となった。
ちなみに面接したのも、この若い店長だ。

さっそく仕事を教わるのだが、基本のレジ打ち、品出し、清掃など
夜勤には仕事がたくさんあるので、覚えるだけで大変だ。
しかも店長に教われるのは今回を含めて2回だけ。
 「大丈夫、大丈夫、やればできるから」
と、カンタンに言う店長だけれでも、仕事はキチンと丁寧に教えてくれる。
夜10時から朝7時までの9時間、長丁場だ。

まずやる事は本棚の整理から。
毎日指定された本や雑誌を棚から外していく作業で、比較的単純作業だ。
本棚には毎日本や雑誌が大量に入荷するので、これをやらないとすぐに棚がいっぱいになる。
その次はサンドウィッチやお弁当が搬入されるので、それらを指定された棚に並べる。
この時に日付を確認して、先入れ先出しを守る。
これらの作業は全てお客様がレジに来たら止めて、レジ対応が優先なのは言うまでもない。

午前0時頃になると、雑誌等が搬入され、先ほど整理した本棚に並べていく。
これも特に難しい作業ではないが、ジャンプやマガジンの発売日の時は
棚に並べるのを待っているクソガキどもがかなりウザい。

終電が無くなると、客足も途絶えて静かになる店内。
夜中にも什器類の清掃や、ドリンク、パン等の搬入がある。
店長に一つずつ、キッチリと仕事を教わりながらできるようにしないとな。
夜が明け、朝日が見える頃には夜勤の作業はほとんど終わり。
あとは早朝バイトの人が来るまで頑張ればいいだけ。

午前6時頃になると、出勤前のサラリーマンや学生の来店が増えて忙しくなる。
そして待望の早朝バイトのオバさんがやってきた。
あとは時間まで忙しいレジ打ちをこなせばイイだけ。
その間に早朝バイトのオバさんは自分の仕事をこなしながら、レジ打ちもやるので凄い。

せわしなくやって来る早朝の客をさばくのに精一杯で、気が付いたら朝7時。
 「お疲れ様でした」
今の自分を一番表している言葉だと思った。

(第2話 完)


第3話「深夜の訪問者」


わずか2回しかない店長とのマンツーマンによる研修も無事に終了。
 「分からない事があったら、夜中でも電話して」
と、言われて一人でも出来そうな気がしてきた。

昼間は大学に通い、夕方は週6日で酒屋のバイト、夜は週3日でコンビニの夜勤。
身体はキツいが、ヒマが全く無いのでお金がどんどん溜まっていく。
慣れとは怖いもので、無茶なサイクルに身体が慣れていくと意外に平気になるものだ。

あれから1ヶ月が経ち、順調に一人で仕事をこなす日々が続く。
コンビニのすぐ近くに住んでいる、昔からの友達のトシアキが夜中に遊びに来るようになった。
慣れてくると仕事を前倒しでこなして、夜中は休んだり、自分の時間を作るようになり、
トシアキが店に来ては、二人で話をする事が多くなった。
客が来ないと特にやる事が無いので、長い時間を潰すのはとても大変だ。
そんな時にトシアキが来て、話をするだけで楽しくなる。
トシアキはただのヒマ潰しで来てるだろうが、俺にとっては嬉しいものだ。
だがトシアキは真夜中にしか来ない。
おそらく彼の生活リズムがそうさせたのだろう。

トシアキが来るだいぶ前の時刻に、ある女の子がたまに来る事がある。
女の子の名前はマリコ
俺と同じこの春から大学に通う、小柄で可愛らしい子だ。
マリコは夕方から俺が出勤する夜10時まで働いてる同じバイト仲間で、
ちょうど入れ違いで帰ってしまうので挨拶程度しか会話をした事が無い。

俺が働き始めてからしばらくして、たまにマリコがコンビニに来る事がある。
シフトに入ってないのに職場に来る人なんて珍しいと思った。
そのうち、俺が働いてる深夜の時間帯にも現れるようになり、
自然の流れで俺とマリコは話すようになった。
最初はマリコに敬語を使っていたけど、次第にタメ口になり、お互いの事を話すようになっていった。
2人の仲が深まっていくには、そう時間は掛からなかった。

(第3話 完)


第4話「電話」


あれから俺とマリコは、2人とも大学に通うために一緒に電車に乗る事がある。
俺が朝まで働いて、終わる頃になるとマリコが店に迎えに来てくれる。
そのまま一緒に駅まで歩いて電車に乗り、マリコの乗り換え駅まで送っていく。
俺は少し遠回りになるけど、少しでもマリコと一緒にいれる時間が増えるのなら苦にならない。
だがしかし、一緒に電車に乗れるのは俺が夜勤明けの時だけ。
俺もマリコも携帯電話はおろか、PHSやポケベルも持っていないので連絡の取りようが無いからだ。
通話料の安いPHSくらいは持っても良いかもしれないな。

マリコの仕事が終わる時に俺が迎えに行った事もあった。
その時はマリコの自転車に2人乗りして、ブラブラした楽しい夜だった。
夜に女の子を一人にさせるのは危ないので、マリコの家までそのまま自転車で送っていった。
初めて見るマリコの家は、俺の家からさほど遠くないところにあり、見た事のある店だった。
もちろん意識して店を見た事は無い。
 「へぇ〜、家はここなんだ?」
 「うん。送ってくれてありがとね。」
 「じゃあ、帰るね。おやすみ。」
 「あ、待って!これ、私の部屋の電話番号。」
 「?」
 「家の電話番号と別だから、これに掛けてね。」
 「うん、いいの?」
 「いいよ。はい、あげるね。」
こうしてマリコと連絡を取る事ができるようになった。

俺が夜勤の無い夜には、必ずマリコに電話を掛けた。
他愛無い話をするだけでも楽しくなり、つい長電話をしてしまう。
こうなってくると、やはり自分の携帯電話が欲しくなるというものだ。

すでにマリコの事を「好き」だという感情がある。
マリコも直通の電話番号を教えてくれたので、少しは期待してしまう。
今のままでも充分に楽しいが、マリコと付き合いたい。
どうしようか悩む初夏であった。

(第4話 完)


第5話「同意」


深夜のコンビニの仕事は一人なので、気がラクだ。
夜中は客が来ないので仮眠したり、有線を好きなチャンネルに変えては好きな音楽を聴いたりした。
モチロン仕事を終わらせてから、自分で自由時間を作るのだ。
俺のポリシーで、「やるべき事は絶対にやる、なので文句は言わせない」は守る。
こうしないと、何かあったらすぐにクビになるからな。

いつだったか、終電が無くなる頃にマリコが店にやって来た事があった。
 「夜中は仕事さえ片付ければ特にやる事が無いんだ。」
と、マリコに話した事があるけど、まさかこんな時間に来るとは驚いた。
俺が商品を棚に並べているとマリコも手伝ってくれて、二人で話しながら仕事をした。
もちろんマリコは給料は出ないが、それでも手伝ってくれるのは嬉しい。
 「いや、違う。嬉しいのはマリコが会いに来てくれた事の方だろ!?」
そんな事を考える余裕も無く、俺の心は舞い上がっていた。

そういえばマリコは何のために店に来たのだろう?
 「まさか俺に会いに来てくれた!?」
そんな自分の都合の良い考えしか浮かばない。
そうこうしてると商品を棚に入れ終わり、とりあえずの仕事は全て完了。
次の搬入が来るまではずっと休憩タイムだ。
マリコに手伝ってくれたお礼に飲み物をご馳走した。
2人分のジュース代を自分でレジで打ってお金を払い、マリコとバックルームにあるイスに座った。

バックルームとは店のレジの奥にある店員のためのスペースだ。
机があって、有線の装置や監視ビデオ、棚に入らなかった商品、伝票などが置いてある。
仕事中は休憩する時以外は立ち寄らないので、俺にはあまり必要が無い。
休憩をしてる時も客が来れば監視ビデオに映るし、自動ドアのメロディ音で気付くので問題あるまい。

さて、マリコが何でこんな時間に店に来たのか、ちょっと聞いてみるか。
 「こんなに遅くに店に来て大丈夫?」
 「うん、バイト先に行って来るって言ってあるから大丈夫だよ。」
 「そうか。でも何かあったの?」
 「ううん、家にいてもヒマだったから。」
マリコは見た目がお嬢様っぽいけど、そんな事は無いのかな?
 「俺も深夜はヒマだから、来てくれて嬉しいよ。」
マリコは笑顔で微笑んだ。
 「ホントはね、会いに来たんだ。」
俺は嬉しさと恥ずかしさで、顔が真っ赤になった。
 「ありがとう。」
 「もっとお話をしたいし、ケンタの事をもっと知りたいな。」
マリコも恥ずかしそうに俺に言った。

俺はマリコの手を握り、そのままマリコの方に近寄った。
マリコの目を見ているとドキドキする。
少しずつ顔と顔が近づいていき、そのまま自然の流れで唇と唇が重なった。
マリコは目を閉じた。
俺は握っていた手を離し、マリコの小さな体を抱き寄せる。
 「これは夢じゃないのか?」
と、思いながら、マリコの唇が気持ち良く感じる。
唇を重ねたまま、マリコの胸を触ってみる。
だが、服の上からだと形が分からない。
有無を言わさず、マリコの上着の中に手を入れ、ブラのホックを外しにかかる。
唇を重ねながら頭の中でホックをイメージしてるが、なかなか外せない。
 「これはかっこ悪い。」
と、思い、唇を離してから落ち着いてホックを外した。
マリコはまだ目を閉じたままで、少し呼吸が荒い。
再び唇を重ね合わせ、上着の中に手を入れてマリコの胸に触れてみた。
まだ高校を卒業したばかりのマリコの胸は温かく、柔らかかった。
今度はパンツルックで爽やかなマリコの下の方に手を伸ばした。
ベルトを緩めて、パンツの中に手を忍ばせようとした瞬間、
 「ピロリロリ〜ン。」
自動ドアの開く音だ。
こんな真夜中に客が来るなんて、タイミング悪すぎだ。

雰囲気台無しになったため、これ以上の事は何も起きなかった。
マリコは落ち着きを取り戻して帰っていった。
結局残ったモノは、マリコの胸の感触だけだった。

(第5話 完)


第6話「終わりと始まり」


あれからマリコとは何も無い。
仕事の引継ぎで挨拶をする程度だ。
今まで一緒に学校に行ったり、電話を掛けてたのもしなくなった。
やってはいけない事をしてしまった気がする。
やはり推定お嬢様にいきなりあんな事をするのは間違っていたのか。
付き合ってもないしな。
これがまさかのちに「バックルーム未遂事件」と呼ばれる事になるとは。

ある日の夜、マリコの仕事終わりを見計らって店に会いに行った。
話をしたかったからだ。
まず、あの日の事をちゃんと謝りたかった。
そして、俺の気持ちをちゃんと伝えたかった。

店の外からマリコの働いてる姿が見える。
まだ上がれないのか。
しばらくすると、マリコの仕事が終わったみたいだ。
俺はドキドキする心を落ち着かせて、マリコが店の外に出てくるのを待った。

マリコには俺が今日ここに来る事は伝えていない。
サプライズ的ではなく、あれから連絡を取らなくなったためだ。
店の制服から着替え終わったマリコが外に出てきた。
 「お疲れ。」
 「どうしたの?」
 「ちょっとだけ話がしたいんだけどいい?」
 「・・・分かった。」
店の外だと気まずいし、迷惑が掛かるから、ここから移動しよう。

マリコの家の方に歩き出し、人気の無い道で立ち止まった。
 「こないだはゴメンね。あんな事しちゃって。」
 「・・・・・・。」
 「でも言わせて。マリコの事が好きなんだ。」
 「・・・・・・。」
 「付き合ってくれないかな?」
 「・・・・・・。」
 「返事は今じゃなくていいよ。」
 「・・・・・・うん、分かった。」
しばらくして再び歩き出し、マリコを途中まで送った。

次の日の夜、俺は出勤のため店に向かった。
ちょうどマリコと入れ替わりになるから、昨日の返事を聞いてみようか。
俺は少し早めに店に入り、マリコの様子をうかがった。
マリコの仕事終了時間になり、すれ違う時にマリコにこう言われた。
 「明日の夜に電話して。昨日の返事するから。」
 「分かった。」
マリコは着替えて、すぐに帰った。
俺は告白の返事が気になり、その日の仕事は手につかなかった。

次の日の夜、俺はマリコに電話した。
 「もしもし?」
 「俺だけど、いま大丈夫?」
 「うん。」
 「それで、こないだの返事は聞ける?」
 「あのね、・・・・・・ごめんなさい。」
 「・・・・・・分かった。なんでダメなの?」
 「まだ知り合ってそんなに経ってないから。」
 「・・・うん、分かった。ありがとう。」
 「うん。じゃあね。」
俺は電話を切り、悔しくて泣いた。

相変わらず、大学、酒屋のバイト、コンビニのバイトの3つのサイクルで回ってる。
大学に行くと、仲の良いグループのうちの一人ミツハルから声を掛けられた。
 「今度バイトの女の子たちと遊ぶんだけど、どう?」
 「いつ?」
 「土曜日の昼。」
 「ちょっとバイト先に休めるか聞いてみるよ。」
毎週土曜の昼は酒屋のバイトが入っている。
酒屋のバイトの店長に確認を取ると、いつも頑張ってくれているからたまには休んでもイイと。
俺はミツハルにOKの返事をした。

(第6話 完)


第7話「ひと夏の恋」


ミツハルから誘いのあった土曜の昼。
俺たちは横浜駅に集合していた。
どんな女の子たちが来るのか今から楽しみで仕方ない。
酒屋のバイトを休んでまで遊びに行くのだから、今日は思いっきり楽しむつもりだ。
ただ、日頃の疲れが抜けてないのでかなり眠い。

 「おはよ〜♪」
女の子たちがこちらに手を振っている。
主催者であるミツハルしか女の子の確認をできないので、確認を任せよう。
 「おはよ〜」
ミツハルも手を振って返し、確認を取る。
どうやら今日は4対4のデートだとすぐに認識した。

これで男4人、女の子4人の8人が集まった。
みんな揃ったところで横浜駅から京急で金沢八景まで行き、シーサイドラインに乗り換えて八景島駅に到着。
目的地はもうすぐだ。
少し歩くと、ミツハルの言っていた「八景島シーパラダイス」に着いた。
土曜の昼ということもあって、かなりの混みようだ。
まずはチケットを買って中に入ろう。

ここで今日集まったみんなを紹介しよう。
男連中は俺ケンタと、大学の仲間であるミツハルアキラジュンの4人。
女の子たちはミツハルのバイト先の仲間であるチグサアスカヒカリユミコの4人。
チグサアスカヒカリユミコはホントに仲が良さそうなので、ひょっとしたら学校も同じかもしれない。
言っておくが女の子4人は全員女子高生だ。
今日のイベントを主催してくれたミツハルに、心の中で「おまえはホントにイイ奴だな」と感謝した。

みんなのカンタンな自己紹介を済ませ、8人で水族館に入った。
ここでナゼだか自然に4組のカップルで入っていく事になった。
 「女の子たちからの無意識のサインなのか?」と、考えた。
俺の隣にいる子はヒカリだ。
背が小さくて、少しふっくらしてる、まさに俺好みの子で文句は一つも無い。
俺が疲れている事に気付いて、いろいろ心配してくれる。
そんな今日はヒカリと一日楽しむと心に決めた。

水族館では4組に分かれてデートを楽しんでいる。
最初は少し緊張したが、ヒカリとはなかなか会話が弾む。
お互いに話すのが好きなせいか、話題が尽きない。
俺は敬語が苦手なので、ヒカリとはお互いにタメ口で話している。
他のみんなも結構話しているのをみると、早くも4組のカップルが成立かと思ってしまった。
普段女の子とあまり接点が無いせいか、ヒカリの事を好きになる準備は早くも整った。

4組のカップルは、サーフコースターやブルーフォールなどのアトラクションで多いに盛り上がった。
ジュースを飲んだり、フードを食べたりしながら和気あいあいと楽しんだ。
途中、俺が眠気を見せるとヒカリが「大丈夫?」と、優しい言葉を投げかけてくれる。
休憩してる時はヒカリが年下という事を気にせずに、俺は甘えていた。
何だか落ち着くし、何よりも疲れている俺を心から癒してくれる。

いろんなアトラクションで楽しんだり、食べたりして、最後はシーパラダイスタワーに乗った。
綺麗な夜景を見ながら、4組のカップルは幸せそうだ。
俺はヒカリに癒しを求めてただけなのだろうか?
いや、確かに好きだという感情はある。
だが、たった一日で何が分かるのだろうか?
今はヒカリのそばにいるだけで幸せなのは確かだ。

みんなと楽しかった一日も終わった。
シーパラを出て電車を乗り継ぎ、横浜駅で解散した。
もうヒカリとは会えないのか。
連絡先も聞いていない。
だが、ヒカリと会えて楽しかっただけで満足だ。
俺は改めて心からミツハルに感謝した。

(第7話 完)


第8話「線香花火」


楽しかった4組のデートが終わり、いつもの大学生活とバイトの忙しい毎日に戻った。
相変わらずミツハルや他の仲間とも、同じ授業を受けたり、一緒に飯を食べたり、楽しくやってる。

そういえば知らない間にコンビニで働いてたマリコが辞めていた。
何も聞かされずに、最後にあいさつもしなかった。
今さら電話を掛ける事もできないので、もう会えないのと同じか。
久し振りに恋をしたし、いろいろ楽しかった思い出をありがとう。

あの時のシーパラは楽しかったな。
女の子たちはみんな元気にしてるのかな。
ミツハルは同じバイト先で、一緒に働けてうらやましいと思う。
やはり女の子のいる店で働きたい。
いずれまた別の仕事を探す時は、ちゃんと下見して女の子がいるかどうか確認しよう。

シーパラデートから数週間後、ミツハルから再び誘いがあった。
 「また今度こないだの女の子たちと遊ぼうと思うんだけど、ケンタはどう?」
俺の答えはすでに決まっている。
 「もちろんOK、いつ集まるの?」
 「再来週の土曜に集まろうと思う。」
 「了解、空けておくよ。」
 「よろしく。」
まさか望んでいた事が本当に起きるなんて、夢みたいだ。
今度集まる時は、こないだ聞けなかったヒカリの連絡先を教えてもらおう。
後でミツハルに聞いた話だが、次回はどうやらバーベキューの予定だとか。
それは楽しみだ。

それから2週間後の土曜。
二子玉川の河辺にあるちょっとした広場に、カップル4組が再び集まった。
聞かされていた通り、今日はバーベキューをやる。
天気はとても良く、「炎天下で倒れるんじゃないか!?」と心配したくなるくらいだ。

まずは準備なのだが、機材はレンタルするのでOK。
他に必要なモノは、食べ物は必須だ。
ヒカリが大量の肉を用意してくれて、クーラーボックスに入れてここまで持って来てくれた。
そういえばミツハルと女の子たちのバイト先がスーパーだとか言ってたっけ。
おそらくバイド先の店で少しでも安く仕入れてきてくれたのだと思う。
ミツハルヒカリには感謝だ。

暑い日差しを受けながら、みんなでバーベキューを楽しんだ。
近くのコンビニで大量に買ってきたお酒がすぐに無くなりそうだ。
暑いから酒を飲んでもすぐにアルコールが体から抜けてしまう。

女の子たちもお酒を飲んだり、食べたりして楽しそうだ。
女子高生と飲むお酒がこんなに美味しいものだと初めて知った。
モチロン今日もヒカリとは仲良しだ。

前回とは違って、今日はみんなで楽しく話をしたり、食べたり飲んだりしている。
ヒカリとはもっと仲良くなりたいのが本音。
だが、他の男が狙っている可能性もある。
前回は4組のカップルが成立したが、2回目で心変わりする事だってあるだろう。

夕方まで続いたバーベキューも一応終了。
あの炎天下でみんな結構飲んでいたが大丈夫だろうか。

俺はヒカリと前回話せなかった話をいろいろした。
仲良くなるには自分の事を知ってもらうのが一番だろう。
ヒカリも俺にいろいろ話をしてくれた。
そしてヒカリは俺にポケベルの番号を教えてくれた。
これでいつでもヒカリにメッセージが送れる。
ポケベルなんて打った事が無いけど、頑張ってやってみよう。

みんなで散らかったバーベキューの後片付けをして、近くの公園に移動した。
誰かが用意した大量の花火をみんなで分けて、それぞれ楽しんだ。
ロケット花火を人に向けたり、ねずみ花火をバラまいたり、ドラゴンを打ち上げたり。
残った線香花火を誰が最後まで落とさずにいれるか、なんて事もした。

みんな疲れ切ってるはずなのに、目だけは輝いていた。
それは恋をしている目だった。
俺もその内の一人なのは言うまでもない。
ヒカリとは前回以上に親密になったと思う。
あとは自分から動くだけだ。

(第8話 完)


最終話「昨日の仲間は今日は敵」


バーベキューが終わってから、俺はヒカリと連絡を取るようになった。
ヒカリのポケベルに数字を打ち込み、こっちに電話を掛けてもらう。
まだお互いに携帯電話やPHSを持っていなかったので、こうするしかない。

自宅の電話から数字を打ち込むのは、なかなか難しい。
ポケベル専用の数字の羅列による暗号もあるのでなおさらだ。
大学の仲間たちといろいろ情報を交換しながら、暗号を教えてもらった。
慣れるまで大変そうだ。

ヒカリとは電話で連絡を取っているけど、どうやって誘っていいのか分からない。
すでに「好き」だという感情は持っている。
他の仲間も別の女の子とすでにうまくやってる奴もいる。

いっその事、仲間に相談するのも手か。
ヒカリへのけん制する意味合いも兼ねているし、誘い方も教えてくれるだろう。
だが、他にもヒカリの事が好きな奴がいるかもしれないな。
どうするか少し考えよう。

結局俺は仲間には相談しなかった。
ヒカリとはポケベルと電話を通して連絡は取っているものの、会おうとはしなかった。
普段の生活サイクルで疲れているせいかもしれない。

その後しばらくして、仲間から電話が掛かってきた。
 「今何してる?」
 「うちでゆっくりしてるよ。」
 「そうか、今うちにあの時の女の子たちが何人か来てるんだけど。」
電話越しに確かに女の子の声が聴こえる。

仲間と交代で女の子とも電話で話した。
その中にはヒカリもいた。
急に向こうに行きたくなったが、ひょっとしたら仲間の誰かがヒカリの事を好きなのかもしれない。
確認を取りたかったが、しばらくして電話を切った。

頭の中に不安がよぎる。
すでに誰かがヒカリに告白した可能性もある。
確認を取るには仲間に直接聞くか、ヒカリに直接聞くかだ。
もしヒカリがまだ誰とも付き合ってなかったら、告白するべきか。
どうするか少し考えよう。
・・・似たような事が以前もあった気がする。

その後、俺はヒカリとは連絡を取らなくなった。
コンビニのバイトもわずか3ヶ月で辞めた。
理由は特に無い。
もし仲間の誰かがヒカリと付き合っているのであれば、それでいい。
仲間にもその事は聞いてない。

結局、俺が取った行動はヒカリにも告白せず、仲間にもヒカリの話は聞かなかった。
これでいい。
これで俺の大学1年の夏は終わった。

<完>